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2018.07.23

125年前の教育モデルに引導を 映画も作った元ベンチャー投資家

2015年のサンダンス映画祭では製作映画「Most Likely to Succeed」のプロデューサーとして登場したテッド・ディンタースミス(左)。監督のグレッグ・ホワイトリー(右)と共に。

20年にわたり、マサチューセッツ州ケンブリッジのチャールズ・リバー・ベンチャーズで伝説のベンチャー・キャピタリストとして活躍してきたテッド・ディンタースミスが近年エネルギーを傾けているのは、幼児教育から高等教育にいたるまでの教育システムだ。彼が言うには、アメリカの教育システムは崩壊しており、125年前のままで、現在の学生や社会に適応していないという。15年にはドキュメンタリー映画「Most Likely To Succeed」を製作し、サンダンス映画祭でも上演された。

──ベンチャー投資家として成功を手にしたあなたが今、教育の変革に力を入れようとしています。なぜでしょうか?

世界で急速に起こるイノベーション、AIが根底から変えるであろう労働市場を見ているからです。もう一つは、子どもたちの学校でのようすを観察していて、「何だこれは?」という思いに駆られました。子どもたちにとっていずれ必要となるスキルや物の見方を、教育者がわざわざ潰してしまいたがっているようにしか思えません。

──どうして教育者たちはそんなことをするのでしょうか?

125年前のモデルを忠実に守っているからです。現代の産業構造に合った教育の改革が必要です。また、トップクラスの大学に入ることに『ゲーム・オブ・スローンズ』なみの競争が強いられており、これがますます状況を悪くしています。

──ですが、『ゲーム・オブ・スローンズ』的なプレッシャーがあるからこそ子どもたちが怠惰にならずに済むという声もありますが?

まったくそうは思いません。全米のティーンに関して自殺、うつ病、不安神経症の比率が高まり続けています。全世界で処方されるADHD薬の大半を消費しているのはアメリカの子どもたちなのです。

──オンライン教育がそれへの回答になるのでしょうか?

私にしてみればオンライン教育は子どもたちが数学の解法をより早く覚えることができるようになるだけのもので、教育の再創造にはおよそ何の役にも立ちはしないと思っています。時代遅れのやり方を上手にやろうとしても意味がありません。必要なのは、より良いやり方を選ぶことです。

──より良いやり方とはどんなものですか?

たとえば、微分積分を要求するのを止めて、代わりに統計学を必要要件にすることです。

──詳しく説明してください。

こんな質問をしてみてください。「やあ、ボーイング、そしてマイクロソフトの皆さん。積分や導関数を手計算でやっている人は皆さんの中にいますか?」と。恐らく失笑が起こるでしょう。そんなものはすべてコンピュータにやらせている今の時代です。

しかし、統計学については話が違います。私が話を聞いたどの企業も、データ分析能力のある人材を喉から手が出るほど欲しがっています。それには統計学の素養が不可欠です。またそれだけでなく、豊かで充実した人生を送ることにも統計学が必要なのだと私は主張します。医療や投資にまつわる大きな決断を下すことにも、統計学の枠組みを心得ていることが欠かせないからです。
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編集=岩坪文子 翻訳=待兼音二郎

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