他国から見れば、これらは驚きの結果と言える。ドゥテルテの政策や方針のほとんどは、とてもそうした高評価に値するものとは思えないからだ。
その一つが、南シナ海の問題に関して態度を二転三転させていることだ。領有権を争う海域の権益を基本的に中国に譲るかのような行動も見せているが、それは米中の軍事的対立に進んで巻き込まれようとするかのようなものだ。両国が「誰が味方で誰が敵か」を見定めようとしているときに、一国が取るべき適切な態度とは考えられない。
さらに、ドゥテルテが続ける「麻薬戦争」も挙げられる。国を混乱に陥れ、分断するものであり、国連をはじめとする国際人権団体の考えに反する“戦争”だ。そのほか、有意義な結果を生んでいない汚職との戦いもある。
こうした状況にもかかわらず、人気が急上昇している理由は何だろうか。それは、強い経済にほかならない。フィリピン経済は急成長を続けている。その速度は、中国やインドの経済成長に匹敵するレベルだ。フィリピンの今年第2四半期の成長率は、6.8%だった。
フィリピン経済はこれまで、低いインフレ率と債務残高の対国内総生産(GDP)比によってもたらされる安定したマクロ経済環境のおかげで、健全な国内需要の増加を維持してきた。また、アジア太平洋地域の各国の経済が再び力を付け始めたことからも恩恵を受けている。フィリピンの同地域向けの輸出額は、同国のGDPのおよそ3分の1に相当する水準にまで増加している。
人気を脅かす要素も
だが、こうした状況は近い将来に変化する可能性がある。フィリピンのインフレ率は今年初めから上昇が続いており、6月の消費者物価指数(CPI)は中国やインドを大きく上回る5.2%となった。
また、フィリピンの高い経済成長率は、同国の貿易赤字の拡大にもつながっている。赤字額は今年4月には、15億5000万ドルに膨らんだ。これは、同国が身分不相応な暮らしをしていることを意味する。新興国に向かっていた資本フローが先進国へと戻り始めている現在、危険な状況だと言える。
インフレ率の上昇と貿易赤字の拡大を受け、フィリピン中央銀行は5月、政策金利の翌日物借入金利(RRP)引き上げた。2014年9月以降、初の利上げだ。インフレが制御不可能になることを中銀が望まないのは明らかだ。新興国の経済成長を止める最大の要因の一つはインフレだ。1980年代に同国経済の成長がストップしたのも、一時62.80%にまで上昇した高いインフレ率が原因だった。
そして、金利の上昇は経済を冷やすものでもある。フィリピンの利上げはドゥテルテの人気を冷ますだろうか?──それはまだ分からない。