閉じる

PICK UP

世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

60歳で一卵性双子の1人は癌になり、もう1人は癌にならないということが起こり得る

AIがゲノム情報を解析すれば、将来かかる病気が予測できるようになる、と言われる。だが、遺伝だけが病気の原因ではない。生活習慣病のリスクを決める要因とは。


ゲノム情報をAIに学習させれば、将来発生する病気を予測できるだろうか? 私はそうは思わない。

双子の研究を外来で行ったことがある。性格や行動パターンがどれくらい遺伝するかを知るためだ。一卵性双胎ではゲノム(遺伝子)も成育環境も同じだが、両親に「性格や行動パターンは似ているか?」と問えば決まって「真逆です」と返ってくる。

ある一卵性の双子の姉は、遠くに犬が見えただけでパニックに陥ってしまう。よくよく話を聞くと、公園で叔母に面倒を見てもらっていた際、犬が寄ってきてたまたま姉の膝を舐めた。それ以来の症状だという。この症状は、妹にはない。

一方、こんな一卵性の双子もいた。体重が小さく生まれた姉は、生後すぐに人工呼吸器につながれたため、どうしても姉に親の目がいった。姉の身体は小さめのままだが、妹に比べ皆から愛される表情豊かな少女になった。

しかし、性格が真逆になったきっかけが判らないことも多い。私は以下の仮説を考えた─生後1カ月の双子の弟が、お腹が減って泣いたらミルクがもらえた。兄は隣で泣き声が聞こえて、しばらくしたらミルクがもらえた。

このような偶然起こった経験の違いが積み重なり、積極的な性格、消極的な性格を作り出す。そして性格の違いは、好みや人間関係、行動パターンに影響し、同じゲノムをもつ双子の人生をも全く別のものにしていく。レーザーポインターの角度をわずかに変えるだけで、スクリーンの上で大きなずれとなるようなものだ。

これらの違いは食生活や運動習慣にも影響し、生活習慣病のリスクを変える。その結果、60歳で一卵性双子の1人は癌になり、もう1人は癌にならないということが起こり得るのだ。それには医学的根拠がある。

北欧で4万5000組の双子を対象に調査が行われ、「一部を除きほとんどの癌において遺伝の影響はないか、あったとしても極僅かである」と結論された。癌よりも心筋梗塞や脳卒中の方が遺伝性は低い。裏を返せば、多くの病気は性格や好みの違いで発生するということだ。本を正せば、偶然に起因する部分が実は大きいことになる。

私は双子研究を通じて、小児科医こそが生活習慣病を予防できるかもしれないと感じるようになった。診察に訪れる子供の親には「お子さんが大人になったときの病気を予防できるのは親御さんです。離乳食の味は一生好きでしょう。だとすれば、甘いものばかり食べさせれば将来糖尿病になるかもしれません」などと話している。

私は日々の行動パターンをほんの僅かに変えるだけで、逆に偶然をも制御できると仮定した。だとすれば、偶然の連鎖で方向づけられる将来も変えることができるはずだ。小児科医とは子供の未来を治す天職だとおもう。


うらしま・みつよし◎1962年生まれ。東京慈恵会医大卒。小児科医として小児癌医療に献身。ハーバード大大学院にて予防医学を学び実践中。今年6月に『病気スレスレな症例への生活処方箋』(医学書院)を出版予定。

イラストレーション=ichiraku/岡村亮太

あなたにおすすめ

合わせて読みたい