7月上旬に平壌で行われたフォローアップの米朝高官協議は不調に終わり、北朝鮮の非核化も一向に始まる気配はない。トランプ氏は「正恩氏は約束を守る」と信じて疑わない様子だが、筆者は、北朝鮮が「非核化やるやる詐欺」を仕掛けているという疑念を強めている。
6月12日に行われた米朝首脳会談で出された共同声明の骨子は以下の通り。
1. 米は体制保証、北朝鮮は完全非核化への取り組みを約束
2. 米朝は新たな関係を構築
3. 永続的で安定した朝鮮半島の平和体制構築へ努力
4. 早期に米朝高官で継続交渉
5. 朝鮮戦争(1950~53年)の戦没米兵の遺骨収集で協力を約束
この中で最もハードルが低そうだったのは、戦没米兵の遺骨収集だ。
この作業は両者の信頼醸成を目的としているのは明らかだし、90年代には活発に行われていた。だから、トランプ氏が会談から約1週間後、中西部ミネソタ州での演説で「戦死した偉大な英雄を取り戻した。遺骨200柱が、きょう(6月20日)返還された」と胸を張って報告した際、疑う理由はそれほどなかった。
しかしその後、この発言が根も葉もないことが明らかになる。米国防総省の捕虜・行方不明者調査局(DPAA)ケリー・マッキーグ局長はロイター通信の取材に対して、7月10日の段階で「首脳会談以降に返還された遺骨はない」と断言。
その5日後に、米朝の将官級協議がようやく実現し、米軍準機関紙「星条旗新聞」によると、北朝鮮側が7月中にも50~55柱の遺骨を米国に引き渡すことで合意したという。ただしこれは遺骨の合同発掘作業を経たものではなく、米側がひつぎを北朝鮮側に渡し、北朝鮮が遺骨を納めた上で米側に返還すると伝えている。本格的な遺骨の回収作業が始まるまでには数カ月、さらに探索、回収し、身元を確定するには何年もかかる見通しだ。
対話局面を維持することに腐心
なぜ、トランプ氏はすぐにばれるような嘘をつくのだろうか。その背景にこそ、現在の米朝関係の実態がある。例えば一部の米外交専門家は、トランプ氏は正恩氏との取引が失敗することを想定しており、11月の中間選挙までは「成果があるふり」をし続けるとみる。
根拠としては、北朝鮮に対する米国の要求がなし崩しになっていること。ポンペオ国務長官はこれまで、北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」を受け入れることを「ボトムライン(最低線)」としてきたが、ここにきて「最終的かつ完全に検証された非核化=Final, Fully Verified Denuclearization(FFVD)」という表現に変わってきた。
非核化の完了期限についても、トランプ氏が1期目の大統領任期を終える2021年1月までに一定の成果があればよいとしている。
そもそも、「米朝は最初から、シンガポールでの合意内容の理解で根本的に食い違っていた」(米国の北朝鮮専門家、ロバート・カーリン氏)との指摘もあり、トランプ政権は明らかに、現在の対話局面を維持することに腐心しているというわけだ。