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「行ってみて、衝撃を受けました」と、崇弥は当時を振り返る。

「そこには僕の想像を遥かに超える、圧倒的な世界観を持つアート作品がありました。これらをきちんと編集して社会に発信することで、知的障がいのある人たちの社会的なイメージを変えることができるんじゃないか。そう思って、すぐ文登に連絡しました」(崇弥)

連絡を受けた文登も後を追って美術館へ足を運び、すぐに「これはやるべきだ」と感じたという。

「知的障がいの方々って、“この時間にこれをしなきゃいけない”というルーティンワークの中で生活する傾向が強いんですよ。たとえば同じテレビ番組を絶対に見るとか、コンビニでは同じ商品を絶対に買うとか。彼らが描くアートは形や色彩が繰り返し描かれていて、それらの特徴が如実に作品に表れていました。彼らだからこそ描き出せる創作の表現なんだなって」(文登)



彼らのアートを、世の中に発信できないか──。「るんびにい美術館」との出会いから、2人の事業は始まった。

ブランド「MUKU」ができあがるまで

ブランドを作ろうと思いはじめてから、共感してくれる仲間を集めてチームを組み、コンセプトメイキングやプロダクトの選定、商品化を依頼する工場探しなど、彼らは約1年の時間をかけて準備を進めていった。

なんといっても2人には週5日間の会社員生活があった。しかも文登は岩手県在住、崇弥は東京都在住。仕事終わりや週末の時間を使いながらスカイプでミーティングを重ね、少しずつ形にしていった。

そうやってブランドを作っていくなかで、崇弥はあることに気づく。アーティストの中には、自分の作品がプロダクトになることにまったく興味を寄せない人たちがいたのだ。

「僕たちだったら、自分の描いたものが商品になったり飾られたりすると、やっぱり嬉しいじゃないですか。世間にどう見られるかを気にしたり、売れるものを作りたいと思ったり、作品を作る時に社会的なノイズが入ることもある。けれど彼らは純粋に、描きたいから描いていることに気づいたんです。創作表現が、一点の混じり気もない純真無垢なもので……それはとても素敵なことだと思いました」(崇弥)

純真無垢に描き出されるアートの特性から、彼らがつけたブランドの名前は「MUKU」。2016年8月に、最初のプロダクトであるネクタイをリリースした。


アートの次に考えているのは宿泊施設

「MUKU」を立ち上げてからの約2年間、彼らはネクタイや傘、ブックカバーなど、さまざまなプロダクトを生み出してきた。そして彼らは今、次のフェーズへ進もうとしている。

「今はMUKUでプロダクト制作の活動をメインに行なっていますが、今後はそれ以外の事業も行いたいと思っています。僕らがやりたいことは、アートを届けることではなく、知的障がいのある方が社会とつながる接点を作ること。なので、アートにこだわり続けるつもりはありません」(崇弥)

文=明石 悠佳 写真=なかむら しんたろう

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