私は数週間前、ロンドンで米国のビジネススクールの代表者らと会議を行った。そこで、自分が編集者を務める英リーダーシップ・マネジメント研究所(ILM)発行の雑誌エッジ(Edge)に載せるため、トランプのリーダーシップ手法に賛成・反対の立場でコラムを執筆する学者を探していると話したところ、会場には楽しげなざわめきが広がった。
反対派のコラムには数人の志願者が出たが、賛成のコラムについては誰も希望者がいなかったため、このアイデアは現在も保留中だ。
私はリーダーとしてのトランプ大統領に興味を持ち続けているため、学術的ではなくジャーナリズムの視点から自分で分析することにした。この分析の基盤としたのが、ILMが「リーダーシップの5要素」として掲げる、業績・偽りのなさ・協働・オーナーシップ・ビジョンだ。
1. 業績
フォーブスの「世界長者番付」最新版によると、トランプの推定保有資産額は31億ドル(約3500億円)で、世界766位。また、彼は米リアリティー番組「アプレンティス」に出演して成功を収め、2016年の大統領選に勝利したことで世界を驚かせた。成功を富と名声、権力で測るとすれば、彼ほどキャリアを成功させた人物は、世界でも見当たらないだろう。ただし、トランプは裕福な家庭の出身であり、成功の基盤が整っていたことは間違いない。
2. 偽りのなさ
一般的な定義から言って、彼は偽りのないリーダーだと言える。トランプの発言は、たとえ聞いている人にとって不快極まりないことでも、彼の正直な胸の内を反映したものだ。偽りのなさがもてはやされる現代だが、実世界は偽りだらけだ。企業は広報活動やマーケティング専門家、ブランドコンサルタントに多額の資金をつぎ込んだイメージ向上に余念がないし、個人はソーシャルメディアの投稿を通して自分が完璧な生活を送っているという印象を与えようとしている。大半の政治家からは率直な話を聞きだせないことは、誰しもが分かっているはずだ。
しかし、大統領は自身のツイートでトーンを抑えたりはしない。読み手が気に入るかどうかは別にして、彼は自分の思ったことをそのまま書いている。世界第3位の影響力を持つ人物が一般大衆に直接考えを共有することは、未来の政治を完全に変える可能性を秘めた真の社会現象だ。