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公務員イノベーター列伝

奈良県生駒市の福祉健康部次長、田中明美

介護予防の先進地として、平成29年度に全国から約200人の視察があった奈良県生駒市。短期間で集中的にリハビリなどの支援を行うことで、高齢者が活力を取り戻し、その後、何年も元気に暮らす事例も多く見られる。

生駒市の高齢者福祉を牽引したのは、1995年に保健師として入庁し、現在、福祉健康部次長を務める田中明美だ。田中が大きな成果を生み出すターニングポイントとなったのは、2004年に奈良県が主催した市町村向けのセミナーまでさかのぼる。

熱意が道を拓く

セミナーでは、高齢者の筋力トレーニングを調査した研究が紹介された。そこで、要介護認定を受けた高齢者が、歩けるまでに回復した事例を目の当たりにし、田中は大きな衝撃を受けた。

当時、田中は高齢者や介護事業者から多くの相談を受けて、介護予防の手法に日々悩み続けていた。セミナーを通じて、筋力トレーニングにその解答を見出し、同行した他の市職員との帰途では、実現へ向けて話が弾んだ。

しかし、役所に戻ると事情は一変した。実際に市がアクションを起こすためには、場所やトレーニングマシン、さらには専門家の確保など、さまざまな準備が必要であったため、限られたリソースしかなかった市としては、主体的に動く気運が高まらなかった。

とはいえ、田中は筋力トレーニングが高齢者に必要なものだと信じ、簡単には諦めなかった。直属の上司が帰ったあとに、役所の金庫番といわれる財政課を何度も訪ね、「どうやったら予算が取れるのか?」と必死に尋ね回った。

その姿があまりにも切実だったため、「あいつは変わっているけど、あれほど言うのだからやらせてみよう」と幹部が英断。突然、大きく道が拓けたのである。一旦ボツになった事業が一転して部の目玉事業となる、極めて異例な事態だった。

国の政策にも提言を行う

田中が大きな成果を得た理由は、先のような粘り強さだけではない。彼女は民間の金融機関に勤めていた頃に、状況把握や現状分析を徹底的に叩き込まれた。市の業務においても、有識者会議や介護事業関係者のアンケート、サービス利用者へのヒアリングなど、田中は全方位的に状況把握に努めた。

さらに驚くべきことに、通所介護事業所を1軒1軒回り、現在の経営状況や将来の経営スタンスまでをもヒアリングした。介護関係者の人材確保が全国的な課題になっているが、生駒市の最低賃金は786円であるのに対し、市に隣接する大阪府では909円と、その点にも注意する必要があった。

田中はこうした介護事業者の雇用対策から経営方針までを熟知したうえで、地域における介護の質を長期的に高めてきた。その実績から、厚生労働省の老人保険事業等さまざまな委員を歴任、国の高齢者福祉政策にも提言を行っている。

また、国や県がつくった枠組みの中でのみ動くのではなく、まちの実情に即したオリジナルの事業を展開するために、何度も国にかけ合い、国の制度を動かしたこともある。徹底的な現場主義と、豊富な専門知識に裏打ちされているからこそなせる業だろう。

文=加藤年紀

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