米中間の貿易戦争は、米国経済に大きな打撃を与えることが予想される。追加関税は対中貿易のみならず、消費や投資にも影響を及ぼし、多くの米国民の生活水準が低下する恐れがある。
中国は米国産の農産物やエネルギー資源に報復課税を発動するとしているが、これは米国経済の成長に深刻なダメージを与えるだろう。米国の生産者にとっては中国向けに販売するコストが増えるだけでなく、中国の買い手が調達先を他国に切り替える可能性がある。
米国は毎年140億ドル相当の大豆を中国に輸出しているが、中国は既に米国以外から調達する準備を進めている。米国は、2016年に252億ドル相当の農産物を中国に輸出したが、これらの多くが他国に切り替わる可能性がある。中国側は代替国が見つからなくても、輸入コストの増加分を販売価格に転嫁することはせず、輸入量を削減するだろう。
今後、報復関税の対象は牛肉や豚肉、鶏肉、魚、フルーツ、野菜、乳製品、ナッツ類、電気自動車などにも拡大すると見られ、中国人消費者にとってはこれらの製品の価格が上昇することになる。
米国は3月に鉄鋼とアルミニウムに関税を課しており、ハイテク製品にも関税を発動する構えだ。しかし、これらの措置によって米国の企業や消費者の負担が増すことになる。トランプ政権は今後、関税の対象品目を航空機部品や船舶用モーター、大型車両、医療器具、電子機器、レーダー、無線装置、LED、テレビ、ビデオ部品、バッテリー、機械類、潤滑油、プラスチック製パイプ、化学品などに拡大することを検討している。
ハイテク産業にも大打撃
これらの製品の多くを輸入しているゼネラルエレクトリックやベストバイは、政府に苦情を申し立てている。ハイテク製品に対して25%の関税を課した場合、米国のコストは125億ドル増加するという試算もある。中国が米国産農産物の代替品を簡単に探せるのとは異なり、米国は中国以外にハイテク製品を大量に供給できる国を見つけるのは困難だ。輸入コストが増えれば米国企業の利益が縮小し、これらの企業に成長資金を供給できるファンドの数も減るだろう。
米商務省によると、米国は2017年に鉄鋼290億ドル、アルミニウムを190億ドル輸入している。筆者の試算では、鉄鋼やアルミニウムへの関税発動による米国のコストは91.5億ドルとなる見込みだ。
米ブルッキングス研究所は、中国が報復関税を発動した場合、200万人の米国人が職を失う可能性があると推測している。仮にこの4分の1が実際に解雇されたとすると、50万人になる。さらに、鉄鋼への関税発動で米国企業の原材料コストが上昇し、14万6000人が職を失う可能性があると指摘されている。
これら64万6000人に、昨年の米国の平均年収である5万9000ドルを掛け合わせると、380億ドルもの収入が失われることになる。これにともなう間接的な影響のインパクトを関税率と同等の25%と見積もると、損失総額は476億ドル(約5兆3000億円)に達する。これはあくまで大雑把な計算だが、貿易戦争が米国経済に甚大なダメージを与えることは間違いない。