ライフスタイル

2018.07.15 15:00

バッグを野球ボールに見立てる エルメスの「真剣な面白がり」


小暮:数年前に、エルメスのレザー部門の責任者にインタビューさせていただきました。女性の方でした。印象的だったのは彼女が「革を見ればおのずとデザインすべき形がわき上がってくるものだ」と語ったことでした。馬具づくりに始まったメゾンだけに、エルメスはまず最上級の革を選ぶということは、ファッション業界では有名です。

それに職人の育成にも積極的。最近、2020年までにフランスで2つのレザーアトリエを新設、500人の職人を雇用することも発表しています。

森岡:10年くらい前でしょうか。エルメスでクロコダイルのブルゾンとコートを見ました。エルメスらしくビビッドで鮮やかな色合い。その革、「腑(ふ)」と呼ばれる鱗がフェイクレザーと勘違いしてしまうほど傷もなく揃っていて、しかも美しい。僕のなかでは史上最高のクロコダイルでした。

小暮:いやぁ、エルメスの製品は革フェチじゃなくてもついつい見とれてしまいます。このバッグはカーフレザーですが、素晴らしい艶感があります。淡いグレーの色もシックですね。

森岡:表面にレザーを編み込んで野球のボールに見立ててあるわけですから、職人技と“面白がり度”にあふれていますでしょう。

小暮:フランスって、野球やりましたっけ? フランスならば、サッカーとかラグビーのボールをモチーフにしそうですが……。

森岡:そうですね、確かに。でも予定調和でないところも、エルメスらしさでしょう。

小暮:デザインでは大いに遊んでいますが、ベースになっているこの「ボリード」は、世界でいちばん最初にファスナーを用いたといわれるバッグで、誕生が1923年。自動車時代の到来を象徴するバッグです。その記念碑的なモデルにこうした意匠を施してしまうところが、“面白がり”であり、メゾンの気概でしょう。

森岡:本当に何でも真剣にやっているのがエルメスなんです。素材選びもつくりそのものもすべて真剣にやっているからこそ、“遊び”も許されるのでしょう。

小暮:次に何が出てくるのか? ぜひ我々の期待を、いい意味で裏切ってほしいですね。


森岡 弘◎『メンズクラブ』にてファッションエディターの修業を積んだ後、1996年に独立。株式会社グローブを設立し、広告、雑誌、タレント、文化人、政治家、実業家などのスタイリングを行う。ファッションを中心に活躍の場を広げ現在に至る。

小暮昌弘◎1957年生まれ。埼玉県出身。法政大学卒業。82年、株式会社婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。83年から『メンズクラブ』編集部へ。2006年から07年まで『メンズクラブ』編集長。09年よりフリーランスの編集者に。

photograph by Masahiro Okamura, text by Masahiro Kogure, edit by Akio Takashiro

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