ファッションディレクターの森岡 弘とベテラン編集者の小暮昌弘が「紳士淑女が持つべきアイテム」を語る連載。第16回は、エルメスの「ボリード1923 ベースボール」をピックアップ。
小暮昌弘(以下、小暮):森岡さん、今回はエルメスですね。1837年、フランスで馬具工房としてスタートした、まさにラグジュアリーブランドの頂点ともいえるメゾンです。エルメスが創業以来、いちばんに大切にしているのが職人の手仕事です。
森岡 弘(以下、森岡):その通りです。でも僕はエルメスって、意外に“アバンギャルド”と思うことも、ままあります。もちろん過激という意味ではなくて、“面白がり度”が本気なんです。時代の気分やエスプリを見事に提案してくれるメゾンだと思っています。
小暮:“アバンギャルド(avant-garde)”。これもフランスが起源ですよ。もともと軍隊用語で、最前線が転じて、前衛という意味に。そうですね。確かにレディスのコレクションではクリエイティブディレクターに斬新な人を起用してきましたからね。
森岡:現在はナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーがアーティスティック・ディレクターを務めますが、マルタン・マルジェラ、ジャン=ポール・ゴルチエ、クリストフ・ルメールなど、そうそうたる面々が担当してきました。
小暮:メンズは1988年以来、ずっとヴェロニク・ニシャニアンが担当。女性です。
森岡:そんな彼女のディレクションのもと今シーズン誕生したのが、野球のようなバッグの「ボリード」です。
小暮:高校球児だった森岡さん、個人的な趣味で選ばれたんじゃないですか(笑)
森岡:いやいや。今シーズンはこのバッグ以外にもベースボールをモチーフにしたブルゾンなんかもつくっていますよ。
小暮:趣味の話は冗談ですよ(笑)。以前に野球用のグローブとかボールまでつくっていたこともあるでしょう。正直、ラグジュアリーブランドがここまでやってしまうんだと驚いた覚えがあります。
森岡:テーマ設定が本当に面白いんです。エルメスの場合は新作を見るたびに、“面白い”“楽しい”と感じてしまう。何かしらいつも発見があるんです。それも素晴らしい。