ビジネス

2018.07.10

テクノロジーは効率化ではなく、表現の幅を広げるもの|visvim中村ヒロキ(後編)

visvimデザイナー 中村ヒロキ




──ミレニアル以下の世代は、従来型のラグジュアリーに対する関心が低下しています。その一方で、テクノロジーによって生み出された、例えばアップル製品など「ツルツルしたもの」に興味を示すそうです。


僕は逆ですね。デジタル化が進めば進むほどや人間味のあるものに興味が湧きます。いまいるアトリエの柱は、職人さんが本気でまっすぐにしようと思って作っています。だけど、人間の手で作るものだから、本当のまっすぐではない。機械産業に取って代わられて、完全な直線が増えているいま、僕はそういうものに囲まれるとクラクラしちゃうんですよね。

僕は、長い時間を経て形成されてきた人類の歴史に紐づく、本能に訴えたいわけです。ミレニアル世代というくくりで呼ばれ始めたのは最近でしょう。数百万年という時間の中で養われた本能が、ほんの数年で薄れることはないと思います。

価値ある技術を未来へ繋いでいきたい



──ラグジュアリーブランドは、人々の憧れを盛り上げてインスパイアすることで、高価格帯のビジネスを展開しています。一方で最近は、みんなが欲しいものがなくなってきて、パーソナルなラグジュアリーが増えていくんじゃないか、と言われています。中村さんは、今後豪華絢爛なビジネスから、徐々にやり方が変わっていくと考えますか。

ラグジュアリーブランドというカテゴリでも、それぞれやり方が異なりますよね。本質的には全く異なるブランドだらけ。僕はブランドをカテゴリで見ないので、逆に、ファストファッションとラグジュアリーのここが近いな、とも考える。マーケットが多様化、細分化しているから、マーケティング寄りな消費型のラグジュアリーブランドもあるし、物作りに基軸を置くものも、クリエイティブに基軸を置くものも、モードとしての格式に振っているものもあります。

ただ、昔のように、一家に一つラグジュアリーブランドのカバンが欲しい、という時代ではない。消費者のニーズが細分化し、色々なニッチができてきているから、ブランドのニッチなコンセプトで共感をつくり、グローバルで通用する規模感のブランドが今後ますます増えてくると思います。

──これからvisvimがやっていきたいことは?

世界中の産地やマニュファクチャーを盛り上げることです。3年くらい前に、シルクを広げてミルフィーユのように重ねる「真綿」に着目して、アパレルのインサレーターに使用したことがありました。真綿は一本のフィラメントでできているので、強度があって、摩擦すると暖かくなるし美しいドレープが出るんです。

素晴らしい素材なのに、今はほとんど使用されることがなくなっていたのですが、visvimでその素材を使用するようになって、福島の工場でここ40年のうちで一番大きなオーダーになったんです。現代のマーケットに生きる者として、価値ある技術を未来へ繋いでいけたらと思っています。

聞き手=福田稔 文=長嶋太陽 写真=小林真梨子

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