ローランド・ベルガー 福田稔
──海外で受け入れられている理由はどうお考えですか。例えばコムデギャルソンは、既存の欧米的なファッションへのアンチテーゼという意味合いを持ち、それは日本という記号とも深く結びついていましたが、そういった「日本的な」受け入れられ方をしているのでしょうか。
最初から日本と海外を全く区別していないから、かもしれません。国の壁も感じていないんですよ。
ただ、ブランドを初めて4年目くらいに、ビジネスとしてやっていく上で、このままだと厳しくなると思いました。というのも、海外の取引先とやりとりをする中で、人々の嗜好が多様化しながらボーダレスになっている。日本国内と同じような規模のマーケットが、世界中のさまざまな国にそれぞれ存在する、と感じたんです。
これは、インターネットの普及によって世界中に垣根なく情報が届くことと、物資を届けるための流通インフラの発展が要因になっているように思います。
──なるほど。海外のvisvimの顧客はどういった方々なのでしょうか。
アジアの顧客も、アメリカの顧客も、みんな近い感覚や考えをお持ちです。ものを長く使いたいとか、経年変化に喜びを感じるとか、本質的なものを素敵だと感じるとか、そういう深いところで共感しているのでしょう。言葉はもちろん違いますが、国ごとの縦割りを飛び越えて、興味によって横軸で人々が繋がることができています。
いかに日本的なカルチャーから自分を解き放つか
visvimデザイナー 中村ヒロキ
──ニッチな文化や技法をvisvimというフィルターを通して提案することで、世界中の文化をもっと多くの人へ伝えていきたいという意図はありますか。
僕たちがつくっているものの多くは、いきなり発明されたのではなくて、長い脈絡の中から、なんらかの影響を受けて作られたものなんですよね。長い時の流れの中で、物作りは常に過去からインスピレーションを得ていくわけです。だから、あとで振り返ったときに、この服すごいなって言われたいんですよ。
どうしたら自分なりにより良いものを作れるか、というところからスタートして、自分が素敵だと思うものを辿ると、トライバルや民芸に行き着く。なんでそれが好きなんだろう、と感じること自体にも興味があって、そこに引っかかっている理由などをインスピレーションのヒントにしているんです。
──海外の方は、服に限らず、日本発のモノに対して何らかの日本的な要素が含まれていることを好む傾向がありますが、visvimはそういった受け取られ方をしているのでしょうか。
僕の無意識の中には、日本的な要素がかなり多く含まれていると思います。日本は文化的にリッチだし、ファッションブランドに関しても先駆者達がいらっしゃって、流れもある。
ただ僕は、そういうことに囚われず、いかに日本的なカルチャーから自分を解き放つかを意識していました。日本的な要素を意識的に取り入れようとすると、発想がブロックされてしまうから。だから、日本人らしさ、ということも考えていないです。クリエイティブに限らず、ビジネスモデルとしても国内を想定することなく、意識的にその制限をはずして考えています。
──実際に海外の顧客からはどのような評価をされているのでしょう。
プレゼンテーションやパッケージにまで繊細さが行き渡っていて日本的だと言ってもらうことが多いです。特に評価が高いのは「和テイストの衣服」です。日本的なものを取り入れるという目的ではなく、単純に野良着の形や江戸時代の日本の藍染を魅力的に感じたことに立脚しています。
日常着に取り入れるとなると、日本人にとっては距離が近すぎて、作業着という元々のイメージが強く想起されてしまう。しかし、固定観念を外して捉え直すと、デニムジャケットやワークウェアのように世界中の人が袖を通すポテンシャルがあると感じたんです。結果的に広く愛されて、日本の顧客やスタッフも含めて、多くの人が普段着にしてくれているんですよ。(後編へ続く)