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2018.07.16

農村を疲弊から救え 大分県の「小さな巨人」利他の思考

「紫根染」のワークショップの様子と完成したもの


農業水路の補修維持費用は地域の人達が担っている。就農者が減れば、1人あたりの負担も増える。それが農家の経営を圧迫し、後継者不足を加速させるという悪循環に陥っていた。

「この事業のポイントは、エネフォレストが発電事業者にならないということです。あくまでも発電事業者は地域の人達。私達は発電所の計画を作り、発電所づくりとメンテナンスを請け負うところまでしかしません」

発電所計画を立てる場合、水利権を管理する土地改良組合の理事の許可が必要になる。ここでも木原の「利他」の精神が説得に力を持つ。

「地域の人にとっては、売電収入でお金が回る仕組みができれば水路の維持管理もでき、農業も続けられます。弊社では、設計、施工、メンテナンスという全体のコーディネートをする際に、すべて大分県内の企業にお願いするんです。そうすることで雇用も創出できるし、地場の会社なので金額も安く抑えられます。収益が少ない分は、広告宣伝費だと思って割り切っています」

大手コンビニ会社から転職
 
それにしても、木原の思考回路はどうしてそんなに「利他」「地域のため」に向くのだろうか。人の言葉を額面通りに受け取れない筆者の性分が頭をもたげて、事業とは直接関係ないパーソナリティを聞いた。
 
子どもの頃から正義感は強かったのだろうか?

「性格は生真面目で几帳面ですね。ただ、正義感はあるけど目立ちたくはない。教室の席でも、できれば後ろの隅っこの方に行きたいと思うほうでした」
 
それでも長時間話していればわかる。生徒会活動はやっていたに違いない。

「たしかにやりました(笑)。今だったらパワハラと言われるかもしれませんが(笑)、部活の顧問が担任だったので、生徒会に無理やり立候補させられました。もっとも、僕自身も『出るからには落ちたくない』と思いました」
 
木原はその選挙で当選したが、生徒会長になることは固辞した。

「生徒会に立候補した人たちの話し合いで役割を決める時、真っ先に『書記にしてくれ』と申し出ました。でも、実際には書記も会長も副会長も、仕事内容はそんなに変わりませんでしたね(笑)」

自らを「人見知りだし、引っ込み思案」という木原、大学卒業後はコンビニ業界大手のセブン・イレブン・ジャパンに3年間勤め、その後、父が立ち上げたいまの会社に入社する。大組織の会社員からの転身は大きな決断だったはずだ。そこに迷いはなかったのか。

「確かにきつい部分もありましたが、このチャレンジが自分を見直すきっかけになって自分を大きく変えてくれました。つくづく、いい仕事を与えられたなと思っています。今になって思えば、チャレンジすることで失ったものはひとつもありません。

もちろん多くのお金や時間は使いましたが、それらはすべて勉強料。チャレンジしないほうが失うものが大きかっただろうし、チャレンジしたからこそ人の苦しみも理解できるようになりました。もし、あのままサラリーマンを続けていたら、中途半端に出世して『自分はできる』と勘違いするアホなやつで人生を終わっていた気がします」

35歳にして、この悟り方。湧いてきた疑問をどうしても抑えられなくなり、木原に水を向けてみた。

「社会を変えるために選挙に出て、政治家にはならないんですか?」

「うーん、選挙……ねぇ……」

それほど驚いた様子がなかったので、確信を持って質問を重ねた。

「選挙に出ろと言われたこと、きっと何度もありますよね?」
 
さわやかな笑みをうかべると、木原はゆっくりと首を縦に振った。

「言われましたし、言われますね。でも、選挙に出ると、先々やれることが少なくなりそうな気がしているんです。確かに、いろんな政策が邪魔していることはあります。国が主導すれば変わることもいっぱいあります。でも、弊社のような事業をやっている会社は他にはありません。今は地域の起業家であり事業家であるほうが、自由にやれることが多いんじゃないのかなと思っています」

そして、しみじみとした口調で、こう結んだ。

「この10年間の自分を振り返れば、困っている人や矛盾していることを目の当たりにすると、とにかく放っておけない性格なんだなということに気がつきました。いまは『大切な人たちが心身健康に暮らせる世界をつくる』というのが僕のミッションです。1人1人が、自分の大切な人が目の前にいると思って行動することで、思いやりのある素敵な社会になるのだと願っています」

エネフォレスト木原の目指すゴールはまだ先にある。

文=畠山理仁

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