どうすれば良いのか、どう反応すれば良いか分からなかった私は、無視のような形で対応し、居心地の悪さを感じながら会議や会話を続けた。
この方法がうまく行ったことは一度もない。後になって「ああ、なんとも気まずい状況だったな」と思ったのを覚えている。管理職として完全に無能だった。
管理職として働いた数十年の間、私は数百回、いやおそらく数千回にもわたる会議に出席した(実際には数百万回のように感じていたが)。そのほとんどはもはや全く覚えていないが、泣き出す人がいた会議は詳細な部分まで覚えている。
ハーバード・ビジネス・レビュー誌が先日、この問題に関して「今日の助言」として掲載した記事を私が興味津々で読んだのも、こうした背景があったからだ。
共感の価値
この記事は、3月に同誌に掲載されたマネジメントコンサルタント、リズ・キスリクの記事を基にしたものだ。そこには次のようにある。
「従業員が泣き出すと、管理職は気まずく感じることが多い。まるで何も起きていないかのように会話を続けたいと思うかもしれないが、より良い対応は共感を見せること。涙を流しているからといって、従業員が情緒不安定だとか精神衰弱状態にあるとは限らない。従業員の体が、プレッシャーに反応しているだけなのだ」
「『少し休憩を取ってから、どうすれば良いか考えましょう』と言っても良い。また、従業員に短い散歩をしてきてもらったり、コーヒーを飲んでもらったり、会議が自分の部屋で行われている場合は従業員を一人でそこに数分間残して落ち着きを取り戻させてもいい。相手に哀れみの言葉を投げかけたり、その状況を解決したりしようとしないこと」
「『動揺させてしまいすみません』といった簡潔な言葉をかけ、たとえいら立ちを感じていたとしても、自分の方まで動揺しないようにする。冷静を保ち、焦点をぶれさせなければ、従業員が感情の波を乗り越え、取り組んでいる業務に意識を戻す手助けができる」
私はこれを、素晴らしい常識的なアドバイスであり、良いマネジメントだと感じた。
私は幾つかの意味で、最終的に大事なのは共感だと思う。状況を無視して、それが魔法のように消えることを期待してはいけない。動揺している人に対し、見えないふりをしてはいけない。管理職として人を率い、分別を備えた人間として、他者に対する自然な共感を見せよう。
人材・リーダーシップ開発企業のDDIが行った調査では、共感がマネジメントの重要スキルであるのにもかかわらず、この能力に長けている管理職は40%しかいないことが示された。
従業員が泣き出す状況が全て同じではないことは、重々理解している。私は、静かなマンツーマンの会議で泣き出した従業員も、張り詰めた敵対的な雰囲気の大きな会議で泣き出した従業員も見てきた。しかし管理職として、共感を見せるというシンプルな原則に従えば、どんな状況であっても正しい道を歩み、私よりもずっと効果的に対応できるはずだ。