ビジネス

2018.07.12

空気環境も選ぶ時代に「小さな大企業」がつくった世界基準の装置

エネフォレスト社長 木原寿彦(右)



4月25日、Forbes JAPANスモール・ジャイアンツアワード授賞式に出展されたエアロシールド(photo by Ran Iwasawa)

エアロシールドのサイズはティッシュボックスほどの大きさで、重さは約3kg。室内の高さ2.1m以上の壁面や天井に設置し、紫外線を水平に照射することで室内上部に紫外線の層を形成する。室内の空気は自然対流するため、空気中を浮遊する細菌・真菌・ウィルスを紫外線の層が殺菌し続ける仕組みだ。

「紫外線は人間が長時間浴びると人体に悪影響を及ぼしますが、エアロシールドは特殊なルーバー(仕切り板)構造によって下方照射を防いでいます。そのため室内に人がいても害を与えることなく、24時間・365日稼働できます」

配管の必要もなく、人の耳に聞こえる動作音もない。家庭用の100V電源で設置できるため、既存の建物への後付導入も容易だ。電気代は24時間稼働で1日7.6円。殺菌能力と安全性を両立できる技術で、国内に類似製品はない。

エアロシールドは米国政府の感染症対策機関であるCDC(米国疾病対策センター)が作成する空気感染対策のガイドラインに、日本メーカーの装置としては唯一、各種測定データとともに掲載された(掲載当時の名称は「エアシールド」)。

また、社団法人日本工業技術振興協会の技術評価情報センター(CTA)による技術評価でも、「競合他種の殺菌装置に比較してきわめて大きな優位性を発揮するものと考えられる」という高い評価を受けている。

最初の半年間、1台も売れず

2016年、エアロシールドは九州ヘルスケア産業推進協議会が行う第三回『ヘルスケア産業づくり』貢献大賞の大賞を受賞するなど、徐々に認知度を高めてきた。しかし、ここに至るまでには苦難の歴史があった。

「僕がエネフォレストの営業職として転職してからの半年以上、エアロシールドは1台も売れませんでした。銀行だけでなく父親の電気工事会社からも数百万単位で借金をしていたので、その間は苦しくて死ぬ思いでしたね。よくドラマで『社長が自分に生命保険をかけて会社の資金繰りをしていく』というシチュエーションがあるでしょう? あれを本気で考えました」
 
当時は空気感染対策についての社会的な認知度も低かった。そのため電話での営業は怪しまれて相手にされず、アポイントが1件も取れない。木原は丹念に介護施設を訪ね歩き、アポなしの飛び込み営業をかけ続けた。

門前払いは日常茶飯事。なんとか話を聞いてもらえても、すでに市場に出回っていた空気清浄機と比較されて「高すぎる」と断られた。

「空気清浄機は『空気をきれいにする』と消費者に思われていますが、その定義は明確ではありません。エアロシールドの場合、第三者研究機関の実証試験によって、『7時間の稼働で浮遊菌の約9割を殺菌できる』との結果を得ています。メーカーによっては試験を小さな試験用ボックスで行っていますが、エアロシールドの場合は実際に人が生活する広さの空間で行います。出力口付近のデータで見ると、細菌やウイルスは10秒、カビは5分で死滅します」
次ページ > 最初に買ってくれたのは介護施設

文=畠山理仁

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事