ダイヤモンドと詐欺の上に作られたもろい帝国、名声を失い国から国へとさまよう億万長者、それを懸命に追跡する検察官と警察当局──。まるで映画の世界のようだ。
ただ、モディのデザイナーとしての傑出した才能が今後発揮できないのは、非常に惜しまれることだ。彼の技は、自然界の鉱物の中でも最も硬いダイヤモンドに、ぜいたくなしなやかさを与えるものだった。硬さとしなやかさという矛盾を埋めるのは簡単なことではないが、モディは作品を通し、それを次から次へとやってのけた。彼の作品にオークションで高い価値が付いたのもそれが理由だ。彼の作品は、本当に優れていたのだ。
現在のところ、モディの世界を股にかけた逃亡術は成功しているが、一方で彼の必死さを示すものも幾つか見られる。インド紙タイムズ・オブ・インディアは、モディの米国在住の義兄弟ネハル・モディがペーパーカンパニー各社のディレクターの携帯電話を全て破壊し、これら企業をカイロに移転したと報じている。
また同紙によると、ペーパーカンパニーの元ディレクターの一人で、モディの訴追に備えた証人とされる人物は、モディから自己破壊型のメールで現金を移動するよう指示されたと明かした。また先日にはモディ自身が英国で「政治亡命」を申請したと報じられたが、英外務省が真剣に対応するとは考えられず、申請が承認される見込みは低い。
リスクが大きく野心が渦巻くダイヤモンドの世界でも、2009年にその作品が大きな注目を集めてから、わずか数年でフォーブス長者番付入りを果たしたモディの出世は画期的なものだ。だが英・インド政府間でその逮捕が検討されている今、モディの物語は非常に珍しく急激な没落劇となった。インターポールの国際手配により、彼に対する圧力は増すだけだ。
とりわけ、逃亡生活に慣れることは困難かもしれない。モディには自由に使える十分な資金があるとみられ、第3国、第4国と永久に移動を続ける生活を送ることになるかもしれない。生活手段を奪われ、業界からは締め出され、スターの元顧客からは見捨てられたモディは、自らに裁きを受けさせようとする政府や諜報機関から逃れるため、多くの時間を費やすことになる。
モディには、ペンシルベニア大学ウォートン校で出会った華やかな米国人妻のアミとの間に3人の子どもがおり、全員が立派な生活を送っている。モディが遅かれ早かれ自分に問うことになる疑問は、自分ひとりで世界中を移動できた以前の生活と引き換えに、現在の逃亡生活を送ることになったという代償が、改心に値するほどまで膨れ上がってしまったのかどうか、というものだろう。