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スピーチライターに聞いた「リーダーの条件」


「暴力に弱い」といえば、優れたリーダーは不思議なことに、幼少期にいじめられっ子だった、という人が多いのも確かだ。イーロン・マスクでさえ、12歳の頃に気絶するほど殴られたことがあるという。だが、それも無理はない。社会の枠組みから浮いているから、目を付けられやすいのだ。

社会の外へ飛び出し、世界に立脚している人は、空気を読むことができない。魂の形が社会とフィットしていないから、今いる社会とは別のところに居場所を築こうとするし、敷かれたレールからは外れる。不器用なりに、なんとか社会を変えることで居場所を作ろうとした結果、これまでにない優れたものを生み出したり、社会の課題を解決したりすることにつながるのだ。

日本にビジョナリーなリーダーが少ない理由

優れたリーダーの共通点として、もうひとつ挙げられるのが、「社会の外にある世界の存在に、他の人の目を向けさせる」というものがある。

『ハリー・ポッター』シリーズの著者 J・K・ローリングは、ロンドンにあるアムネスティー・インターナショナルのアフリカ調査部で働いていた頃、拷問や投獄といったひどい人権侵害の現実に心を痛め、毎日悪夢を見るようになったという。その深い悲しみや心の傷を癒すため、悪と立ち向かう魔法使いたちのストーリーを描きはじめたのだ。

彼女はハーバード大学卒業式のスピーチで、「想像力を持ち続けていれば、世界を変えるのに魔法は必要ない」という言葉を残している。優れた文学や映画などの創作物は、私と社会、世界を深いレベルで理解し、体験させてくれる手がかりとなる。

だが、皮肉なことに、日本人はビジョンを描きづらい状況に陥っている。以前なら、「これこそがいい人生」という自明のビジョンがあった。共通認識として、いい大学へ入り、いい会社へ勤め、いい家族を築くという理想像があった。だが今は、「一人前の大人になれた」という実感も持てず、「これでいいのだろうか」と迷い、自己肯定感を持てなくなっているのが現実だ。

その上、日本における意思決定では合議制を重視する。過剰なまでに全会一致が求められ、一度決定したことでも、上司やその上の上司が異議を唱えれば、たちまち議論は蒸し返され、振り出しへ戻る。遅々として進まない会議……つまり、空気による支配を醸成するシステムでは、ビジョナリーなリーダーは生まれ難い。

さて、ここまで、優れたリーダーの条件について話してきたが、私がスピーチをする上で、「論理的に構成を組み立てる」とか、「笑顔が大切」などとわかりやすいノウハウを伝授しなかったことを残念がる読者もいるだろうか。もちろん、そのようなテクニックを重要ではあるのだが、リーダーに求められる話し方は、それだけではもはや通用しなくなりつつある。

その原因を誤解を恐れずに一言で言えば、ダイバシティが徹底されてきているからだ。価値観が多様になれば、コミュニケーションを図るための表面的なテクニックではなく、コミュニケーションを図ることを可能にする土台を構築する技術が求められるようになる。それが「世界」であり、ビジョンなのだ。

この連載では、ビジョナリーなリーダーたちの言葉やスピーチを取り上げ、少しでもより解像度の高いビジョンを描くためのヒントを与えられたらと考えている。

構成=大矢幸世

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