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放送作家・脚本家、「くまモン」の生みの親。

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第35回。10年前に近所の弁当屋が潰れるかもと心配し、「勝手にコンサル」を仕掛けた筆者。以降、お弁当にはメディアになる力があると確信し、次なる企画を考えた……。


先日、僕がパーソナリティを務めるラジオ番組のゲストとして、「かつおちゃん」こと永松真依さんに来ていただいた。永松さんは鰹節セレクトショップ「かつお舎」を立ち上げ、そのおいしさと楽しさを広めている女性だ。

鰹節に魅了されたのは25歳の夏。昼は企業受付嬢として働き、夜は六本木や西麻布のクラブで夜遊びばかりしていたが、母に「お祖母ちゃんちに行ってみたら?」と諭され福岡へ。そこで祖母の鰹節を削る姿を見て雷に打たれたような衝撃を受け、鰹節を求めて北は気仙沼、南は宮古島まで全国を回遊するようになった。

現在は渋谷・宮益坂上のバーを週3回、8時〜14時まで間借りして「かつお食堂」をオープンし、「かつおめしごはん」を提供しているという。削りたての薄桃色の鰹節が炊きたてご飯の上で踊る……ほら、ちょっと行きたくなったでしょう?

こちらもラジオのゲストとして来ていただいたのだが、「コインランドリー刑事(デカ)」こと藤原健一さんの場合は、母親の介護に疲れて死を考えていたときにコインランドリー巡りという趣味を持ったことで生きる気力を取り戻したとのこと。現在は東京都内のコインランドリーを「聖地」と崇め、2000軒以上をHPで紹介している。

“鰹節LOVE”の永松さんと“コインランドリー狂”の藤原さんと接して、僕はつくづく思った。圧倒的な偏愛は人の個性をつくり上げる、と。

定番商品の完成度の高さを知る

偏愛という意味では、ライター・編集者である臼井総理さんが主宰する同人サークル「版元ひとり」もはずせないだろう。

臼井さんは『このタルタルソースがすごい!』『このマーガリンがすごい!』など食べ比べをメインにした、非常にマニアックかつユニークな同人誌を多数制作している。

例えば『この麻婆豆腐がすごい!』というタイトルであれば、一般的には「麻婆豆腐のおいしい店ガイド」を想像するが、これは麻婆豆腐の素121種類を食べ比べた考察+最新麻婆豆腐12種類緊急レビューが掲載されたフルカラー208ページの大作! 読むといますぐ麻婆豆腐の素と豆腐を買ってきて作りたくなる、欲望を刺激する一冊に仕上がっている。

その偏愛っぷりに勝るとも劣らないのが、今年(2018年)3月に発売され爆発的に売れたムック本『崎陽軒Walker』だ。日本一売れている駅弁と言われる横浜市民のソウルフード「シウマイ弁当」のおいしさの秘密が徹底解剖され、崎陽軒創業110年にちなんで“崎陽軒LOVE”な著名人110人によるこだわりや想いも掲載されている。僕自身も崎陽軒には並々ならぬ愛があり、ありがたくも110人のトリとして、野並直文社長と対談させていただいた。

崎陽軒ってやっぱりすごいな、と思った体験を話そう。

昨年9月、店舗・数量限定で「ドリーミング筍シウマイ弁当」と「忍法唐揚げの術シウマイ弁当」の2種が販売された。前者はシウマイに次ぐ人気を誇る筍煮を通常の4倍楽しめるお弁当で、後者は通常は唐揚げ1個&シウマイ5個のところ、それを逆にしたお弁当。つまり、シウマイ弁当ファンの「筍煮をもっと食べたい!」「唐揚げをもっと食べたい!」という夢を叶えるお弁当だったのだ。

まず感心したのは、普段の材料の量を変えただけで、新しい材料は使っていない点。それで自社製品のマニア心を煽れるというのがすごい。しかもこれらの限定版を食すと、普通のシウマイ弁当がいかにバランスよく作られているかを感じられるのだ。新しい商材の魅力がメイン商材を上回るとビジネススキームが変わってしまうが、今回は期間限定商品を販売することによって定番商品の完成度の高さをあらためて感じさせたわけで、その手法に僕はしびれた。

イラストレーション=サイトウユウスケ

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