テニス界のアントレプレナー、闘うキング夫人の伝記映画

WTA設立者のビリー・ジーン・キングを演じたエマ・ストーン(左)とキング夫人本人(右、Photo by Samir Hussein/WireImage)


キング夫人を演じるのは、「ラ・ラ・ランド」でアカデミー主演女優賞に輝いたエマ・ストーン。最初にキャスティングを聞いたときは、実際のキング夫人とはややイメージが異なるのではないかと気になっていたが、作品中では、メガネをチャームポイントとして、見事にキング夫人を演じていた。

ちなみにエマ・ストーンはまったくテニスの経験がなく、ラケットさえ握ったことがなかったという。それを4カ月の特訓と7kgの筋肉をつける肉体改造を行って、この闘争心あふれる主人公を見事に演じ切った。さすが、ハリウッド女優の役者魂を見たような気がする。

キング夫人に「宣戦布告」するボビー・リッグスを演じるのは、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」などで跳ねた演技を見せているスティーブ・カレル。元世界チャンピオンにもかかわらず道化師的なパフォーマンスを繰り返すリックズを、これまた、なりきりの派手な演技で見せつける。

もちろん、作品の最大の見どころは、「女と男の闘い」なのだが、そのサブストーリーとして、実際にも自らレズビアンであることをカミングアウトしたキング夫人の「ラブロマンス」も絡んでいく。いまも同性愛者の権利向上に尽力するキング夫人の、当時の複雑な心情も織り込まれている。

そういう意味で言えば、女性だけでなく、LBGT問題などへの多様な視点も備えた作品であるかもしれない。脚本を手がけるにあたって、キング夫人への再三再四にわたる取材を重ねたというだけあって、彼女の考えが色濃く反映されたものになっているのは明らかだ。

監督は「リトル・ミス・サンシャイン」のヴァレリー・ファリスとジョナサン・デイトンの夫妻。さまざまなバトルの間に、コミカルな味わいも加えられ、エンターテインメントとしても十分に楽しめる快心作となっている。70年代にスミス夫人たちが一変させた、カラフルなテニスウェアなど、当時の革新的なファッションも楽しめる。


映画撮影時の様子。右がテニスウェアを着たキング夫人役、エマ・ストーン(2016年4月29日撮影、Photo by Getty Images)

「バトル・オブ・セクシーズ」は、まさに70年代の男女同権運動の流れのなかで生まれた「性別間の戦い」を描いた作品だが、ダイバーシティーが叫ばれるいまの時代にも価値あるメッセージを届けている。このところ、往年のスポーツ選手を主人公とした作品が結構つくられているが、「闘い」の末には、鮮やかな未来が見えることも確かだ。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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