斎藤隆が大リーグで見つけた、強いチームだけが持つ「言葉と組織」


当初、斎藤はディテール欄に書いてあることの意味がわからなかった。一見すると、選手の実力と関係ない。例えば、「学校には自転車で通っている」「練習では、グラウンドにいちばん最初に現れる」「栄養にこだわっている」「アウトになっても、全力疾走で一塁まで走る」など、データからは見えない話で、「母親の性格」や育てられ方が加わることもある。

GMは矢継ぎ早に質問を繰り出していく。「こいつはハングリーなのか」「戦う意思をもっているか」「人の話を聞けるのか、それとも我が道をいくタイプなのか」「三振をしたらどういう態度をとるんだ」

実は、GMが重視しているのは「性格」なのだ。斎藤が09年に在籍したボストン・レッドソックスの当時のGM、セオ・エプスタインも性格を重視したチーム編成で知られる。28歳でGMになると、レッドソックスを2度優勝に導き、シカゴ・カブスの副社長就任後には108年ぶりにワールドチャンピオンとなった。

17年に43歳にしてフォーチュン誌の「世界で最も偉大なリーダー」で1位に選ばれている。

斎藤はメジャー5球団でプレーをして地区優勝を2回経験したが、「どの球団でも必ず性格のことは言及されていました」と証言する。個人主義で実力主義と思われがちなプロスポーツの世界で、日本からやってきた選手は誰しも意外に感じるようだ。

そして、スカウト会議で「性格」を軸にふるいにかけていくGMは、最終的にこう問うのだという。「で、こいつは、我々のファミリーになれるのか?」

斎藤がメジャーでプレーした、どの球団でも聞かされたのが、「俺たちはファミリー」であり、強い組織づくりを学ぼうと彼が再び海を渡った理由もここにあった。

チームに悪影響をもたらす選手

例えば、「ファミリー」は次のディテールをどう判断するか。

学校から数台のパソコンを盗み出した高校生たちが警察に御用になった。そのなかに将来を有望視されている野球部の青年がいたが、彼は運転手役で、実際に盗んだわけではない。

「パドレスはそういう青年をとりません」と、斎藤は言う。

「でも、彼自身に罪はないと判断する球団もあります。強さだけを求めるファミリーであれば、実績を重視するからです。マイナーリーグの選手がバーで喧嘩をしたときも、すぐに放出した球団もあれば、受け入れた球団もあります。パドレスが求める性格は協調性。なぜなら、我が強く、こだわりを強くもった選手の集団です。我が強くても、協調性があれば問題ありません。他の選手に悪影響をもたらすことだけは絶対に避けなければならないので、協調性を求めるのです。理想は、将来的にリーダーシップを発揮できる選手ですね」

凡打や三振をしたときの態度を見るのも、悪影響を避けるためだ。失敗しても、一生懸命なプレーであれば、チームの士気をあげる。しかし、ふてくされて一塁に走らないような選手は、士気を下げる。

また、ファミリーの性格は、オーナーの考えを反映しており、それは各球団の「しきたり」にも表れる。

「アトランタ・ブレーブスのように歴史のある球団は、紳士たれを信条にしています。ポロシャツで球場への出入りはダメです。革靴とスラックスの着用が決まっています。格式でファミリーの統率を図っているのです。一方で、西海岸の球団はスニーカーに短パンでも大丈夫だったりしますね」

日本人選手を受け入れない球団もあり、それもファミリーとしての考えだろう。こうした組織づくりで、斎藤が驚いたのが、「言葉」のやり取りだった。

斎藤は06年にロサンゼルス・ドジャースに入団して以来、日本の野球界では聞いたことのない言葉や表現を耳にしていく。選手同士の会話、契約時の会話、球団スタッフとの会話。やりとりされる言葉が日本とはまるで違う。言葉が選手を動かし、組織をつくりあげているといっても過言ではない。「言葉と組織」。この二つが関係しているなど、考えたこともなかった。
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文=藤吉雅春 写真=苅部太郎

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