斎藤隆が大リーグで見つけた、強いチームだけが持つ「言葉と組織」

国内外7球団を渡り歩き、メジャーリーグで2度の地区優勝を経験した斎藤隆。

2015年12月、彼は、サンディエゴ・パドレスに「球団経営を学ぶ」と無給のインターンとして海を渡った。球団本部・環太平洋顧問に就任したいま聞く、最強のチームとは─。



斎藤隆は、2015年12月からサンディエゴ・パドレスの編成会議に参加している。無給のインターンシップから始めたメジャーリーグの球団経営修行で、彼は常に2冊のノートを持ち歩いた。GMらの発言を「勉強のために」とメモする書き殴り用のノートと、それを清書するノートである。
 
どんなことが勉強になったかと問うと、彼は「目からウロコが落ちました」と、スカウト会議で起きる「本気の喧嘩」から話し始めた。

「お前らに一体、何がわかるんだ!」
 
言い争いで口火を切るのは、ベテランのスカウトだ。

「俺はこの子を小学6年生のときから見続けて、やっと7年が経ってドラフトにかけるときがきたんだ。お前ら、グラウンドに行って、彼が走る姿や打つ姿を一度でも見たことがあるのか!」

非難されるのは、会議室のメインテーブルの半分を占める6人ほどのデータ分析官である。野球経験がない彼らは、スカウトの怒鳴り声に対して、冷静に「いえ、そういうのは見たことがありません」と、パソコンの数字を指さしてこう言う。

「僕が思うに、彼はこれだけの成績をあげているけれど、最後の年に数字が落ちています。ですから、データ的に評価できません」

これがドラフト会議前、1週間缶詰めになって行われるパドレスのスカウト会議である。朝9時から深夜12時まで、会議室で食事をとることもざらだ。会議室のボードには、高校生・大学生800人のプロファイルが映し出される。斎藤が言う。

「メインスカウトの下には、バードドッグと呼ばれる会議に参加しないスカウトが、全米4地域に60人から70人います。バードドッグとは、狩猟で撃ち落とした鳥を咥えて、ハンターのもとに戻ってくる犬のことです。スカウトたちと、統計の専門家であるデータ分析官が対立するのは、1週間の会議の後半、いよいよドラフト上位の選手を選ぶときです」

「目利き」対「統計」は、近年のメジャーリーグを象徴するシーンだろう。マイケル・ルイス著『マネー・ボール』で有名になった統計は、出塁率という初歩的なものだった。

その後、統計は進化している。各球場にPITCHf/xという投球データ収集システムが導入され、球速や球種の比率を追跡。1シーズンに2000万以上の利用可能なデータを作成する。他にも、ボールと選手の動きをすべて数値化し、野手が打球の落下点までいかに効率的に動くかなど、ビッグデータ野球が花盛りだ。

しかし、斎藤は、「ものすごい量のデータを集めているのですが、インプットに走りすぎていて、どれだけ反映できているのか、少し疑問ですね」と言う。

では、喧嘩の落とし所はどこか。ここでGMの登場となる。「プレースタイルはわかった。で、彼はどういう人なんだ?」と、GMが問うと、迷ったときに使われるのが、プロファイルの「ディテール」欄だ。
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文=藤吉雅春 写真=苅部太郎

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