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2015.03.02

クールジャパン成功の鍵は「一流チーム」にあり




日本在住20年を超えるインド人のパンディア氏は言う。「小学校の給食当番こそクールジャパンですよ。子供たちが楽しそうに無償の役割を果たしている」。日本人にはごく当たり前の給食係が、海外の人々から称賛される。パンディア氏は、同郷のモディ新首相と親しい。大の親日家でもある首相は、日本にならった情操教育をインドで実現できないかと真剣に考えているという。

 80年ほど前、イギリスの駐日外交官夫人K.サンソムは、日本人は工芸に優れ、見事な絵師を次々に生み出し、音楽家が世界のトップレベルにあり、優れた詩人の系譜が続いている、と感嘆した。また、民衆の趣味がよいからセンスのよい商品が求められ、生産されるのだ、と述べている。
このような日本の生活スタイルや伝統、文化全般が、世界中で「かっこいい」と評価されていることをクールジャパンと呼んでいる。

 クールジャパンのグローバル化を一段と加速、拡充させようと政府が力を入れ始めた。その目玉の一つがクールジャパン機構(CJ機構)である。
CJ機構は注目度が高いだけに手厳しい批判も多い。一番の辛口は「文化は民間から出てくるもの。そこに官主導の投資などクールではない」であろう。現在、885億円の自己資金を有するが、その内800億円が国のお金である。
確かに、歌舞伎にしても、黄表紙本の山東京伝にしてもアンチ権力的な風土から生まれたし、いまを時めく『カワイイ』や『オタク』も、10年ほど前は多くの世人の眉を顰めさせる存在だった。既成概念と時の社会的ヒエラルヒーに挑むところから多くの芸術、文化、芸能が育ってきた。その世界に官が乗り込むなど絶対矛盾だ、というわけだ。

 ここで冷静に考えておきたい点は、CJ機構は経済戦略の一環として設立された組織であり、文化団体ではないことである。「何がクールジャパンか」を議論するのではなく、クールジャパンといわれているものの中で「何がビジネスになるか」を判断し、出資することが本旨である。
現実のCJ機構は案件の選定に七転八倒している。この分野は、従来の投資尺度や伝統的な評価法が通じにくい。魅力的な事業はリスクの塊でもある。他方で国費を投入する以上、勘と度胸で勝負するわけにはいかない。ファンドマネジャーたちには眠れない日々が続く。結局決め手になるのは、事業推進者のコミットメントの強さ、事業推進母体の人材と組織の確かさだろう。

 近く邦訳が出る興味深い本がある。ピクサー・アニメーションとディズニー・アニメーションの社長を兼任するエド・キャットムルの新著『CREATIVITY,INC.』だ。
少年時代、ディズニーのアニメに憧れ、長じて優秀なコンピューター学者になった彼は、やがて運命の糸にひかれるように高度なCG技術を駆使したアニメ映画製作の道に入る。
そこで出会うのがジョージ・ルーカスやスティーブ・ジョブズだった。もちろん曲者揃いのアーティストに囲まれる組織でもある。そんな中で、彼は当初悩みぬいた。「まるで一群れの馬の背上でバランスを取っているみたいだ。群れにいるのはわずかなサラブレッド、何頭かは荒い野生馬、他はポニーだ。バランスを取るだけで精一杯。操るどころじゃない」。

 一科学者からアカデミー賞を何回も受賞する名経営者になった彼は言う、「よいアイデアでも三流のチームに委ねたら台無し。つまらない思いつきでも一流のチームに任せると凄いものになる」。
さらにキャットムルは「リスクを避けるのがマネジャーの仕事ではない。部下が安心してとれるようなリスクにしてやるのが仕事なのだ」と断言している。クールジャパン・ビジネスにまさにぴったりだ、と痛感する。

川村雄介

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