仮想通貨の世界では、何十億ドルもの富が一夜にして築かれることもある。そこではスピードこそがすべて。そして、CZことジャオ・チャンポンは、他の誰よりも速い。この41歳の中国系カナダ人プログラマーが経営する仮想通貨の取引所「バイナンス」は、創業から180日も経たないうちに世界最大規模となった。
仮想通貨によって尋常ではない富を瞬時に手に入れたのはCZだけではない。仮想通貨熱が盛り上がりを見せた今年1月前半、IT業界の古株クリス・ラーセンの純資産額は200億ドル(約2兆円)前後に達した。ラーセンが所有する仮想通貨XRPはその後65%下落したが、彼は依然、本誌が初めて選出した仮想通貨長者のトップだ。
暗号資産の種類はいまや1500近い。その規模は5500億ドルにも達し、2017年初めの31倍になっている。個々のコインの価格は変動を続けており、ビットコインなどはピーク時の2分の1になったが、それでもはっきりしていることがある。ブロックチェーンを基盤とする通貨が今後も存続し、不安定で投機的であってもその暗号資産がリアルな価値を保持していくだろうということだ。
ブラックマーケットでの取引や個人の節税手段、北朝鮮のような国々による制裁逃れなどが需要に火をつけたのは確かだが、同時に、この技術に対する期待や、国民国家の気紛れからマネーを開放したいというイデオロギー的願望も働いている。
このデジタルな“宝くじ”の当選者たちは、これまでのバブルの勝者たちとは一線を画している。アナーキーでユートピア主義的で、リバタリアン的でもあった仮想通貨の黎明期。集まってきたのは反体制的な暗号技術オタクや、電力を大量消費する「マイナー(採掘者)」、先見の明のあるシリコンバレーの出資者、単なる幸運な「ホドラー(長期投資型投資家の別称)」といった種々雑多な変わり者のパイオニアたちだ。
ただし、これまでのどのゴールドラッシュがそうだったように、仮想通貨の場合も投機に走った者より、「選鉱鍋」と「つるはし」を売った者、つまりこの場合は取引所を経営した者のほうが確実にひと山当てたのだった。
仮想通貨の最大の勝者を特定し、その財産規模を推定することは、容易ではない。仮想通貨はグローバルな金融システムの、ほぼ完全に外側に存在しているし、新たに出現した仮想通貨の長者たちは異様な秘密主義や仰々しい外見がない交ぜの奇妙な環境に住んでいるからだ。
不透明性と仮想通貨の極度のボラティリティ(変動性)を考慮し、リストに掲載する推定資産額には幅を持たせることにした。金額の根拠としたのは仮想通貨の推定保有高や、暗号資産のトレードで得た税引き後の利益、仮想通貨関連ビジネスの持ち分などだ。
本誌が何人かを見落としていたり、一部の推定額が大きく外れていたりすることはほぼ確実だ。だがそれは、1982年に最初の「フォーブス400」をまとめた時も同じだった。当時は多くの人から、そんなものは発表すべきではないと言われたものだ。
それでも私たちは、今年2月にまとめた結果を発表することにした。隠れた富裕層に光を当てることで、この世界をよりよい場所にできたと固く信じている。仮想通貨の歴史をたどれば違法薬物サイト「シルクロード」や「マウントゴックス」の巨額流出事件に突き当たる。やはりこれだけ巨大な富を、社会の陰に潜ませておくべきではないのだ。