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2018.07.02

ファッションの役割を拡張する「見えないを見る」服とは?

(左から)ダイアログ・イン・ザ・ダーク アテンド 檜山晃、アンリアレイジ 森永邦彦、インタープリター 和田夏実



アンリアレイジ 森永邦彦

こうした思考や対話を経ていくなかで「知覚」「服」「拡張」といったキーワードが接続され、少しずつechoの輪郭が形作られていった。具体化の鍵になったのは、視覚障がい者が用いる白杖(はくじょう)である。

「視覚障害者にとって、白杖は自分の知覚を延長してくれるもの。なので、白杖が届く範囲外は全く未知の世界。すぐそばに崖があっても、杖が届かなければ気づけません。もともと知っている場所なら記憶しているのでスムーズに移動できますが、知らない場所はなかなか難しいですね」(檜山)

echoの発想は、そんな檜山の話から生まれたのだと森永は語る。「檜山さんは自分たちと異なる、特別な感覚のなかで生きています。彼らの知覚を補助する白杖という道具をヒントに、空間を知覚できる皮膚のような器官が人に備わったらどうなのだろう、と。」

そして生まれたecho wearは前述の通り、空間を知覚する新しい衣服である。その構造はいたってシンプルでありながら、独自の工夫がなされている。

echo wearの胸部には空間を認知するセンサーが取り付けられている

「服には、空間を知覚するセンサーを取り付けています。視覚が機能しない暗闇の中を歩いてもらい、障害物が迫るとそのセンサーが反応し、振動することではじめて空間を認識できる。ここで重要なのは、衣服をいかに皮膚感覚に近づけられるか。echo wearは、アブソートマー樹脂という、人の体温で軟質化する特殊な材料を使って形成しました。人が着ていない時はパリッとしているけど、着ることで柔らかくなり体にぴったりとフィットする。これによって自分の皮膚の延長のように感じることができるようになっています。」(森永)

アート、服、ツールなどいくつもの切り口を持つプロジェクトであるecho。その根底に貫かれるのは、それぞれが持つ強い好奇心である。彼らは異なる機能を持った瞳を輝かせながら、同じ疑問や喜び、想像力を共有して、新しい知覚の創造へと邁進してゆく。

「私たちは、視覚障がい者のための道具にとどまらないechoの可能性に関心を寄せています。誰もがまだ持っていない、6番目の感覚がecho。私にも、森永さんにも、和田さんにもない知覚をもたらすものであれば、と願っています」(檜山)

「いつか、echo wearがインフラとして用いられるようになったら、きっと社会は大きく変わりもっと便利になると思います。けれど、最初から実用を想定すると、安全性の基準などハードルが大きく上がり、思考の自由度や将来に向けた可能性としての魅力が半減してしまいます。

それぞれが好奇心の塊として思考実験をして、それが共有できること。そこに、すごく大きな価値があると思っています。echoという実験を入り口にして人間の本質を考えていこう、新しい水平線を描いていこうという意思があるので、その先に待ちうける未来に期待しているというのが、一番の気持ちなんです。」(和田)

人のちょっとした「違い」から生まれた、全く新しい知覚。18年7月5日から4日間、echoを用いた体験型インスタレーションがから日本未来館イノベーションホールにて開催予定。ぜひ、新しい知覚体験に触れてみてはいかがだろう。

文=長嶋太陽 写真=松平伊織

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