イーロン・マスクの弟がブルックリンで進める「クールな農業」

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比較的長期の研究開発、時に多額投資を必要としながらも、産業や人間生活を根本から変革しうるテクノロジーを「ディープテック」と呼ぶことがあるが、農業は、それにより解決できる空白地帯が大きい。これまでは主に大学等の研究機関、大企業が担ってきたこれらの開発だが、スタートアップ主導のイノベーションも加速している。

植物工場自体は日本でもおなじみだが、一般的に収益性が課題と言われてきた。大規模な投資による規模の経済の追求によってようやく、持続的な経営が見えてくる。現在は需要も多く生産しやすい葉物が中心だが、今後は、根茎など高付加価値な食材を提供できるかが勝負の分かれ目となるだろう。

技術に目を向けると日本は優れており、たとえばSquare Rootsも、衛生面や室内の二酸化炭素濃度等の管理、作物に応じた受精から収穫までのオペレーションなど、学ぶべきところが多くあるように感じる。日本では完全な閉鎖系でコントロールし、圧倒的な収益性を担保するエンジニアリング集団、PlantX社などのプレイヤーも出てきている。

とはいえ、実際に消費者に選んでもらうためには、見せ方、マーケティングが非常に重要なポイントだ。その点Square Rootsは、技術力はともかく完全に市民の心を掴みにいっていた。出荷された野菜は、Weekly memberに登録すれば毎週素敵なパッケージで送られてくる。前出のGotham Greenはホールフーズマーケットの屋上に農園を持ち、その場で収穫したものを販売するというアピールをしている。

「ローカルに食べる」時代へ

食の工業化と言えば批判もあるかも知れないが、世界的にはむしろ、品種やその栽培、収穫方法に疑問を持つ消費者が多い世の中になってきている。その点、プロセスを完全にオープンにしている方が良いというのも頷ける。ファーマーズマーケットに繰り出す人が増えているように、市民にとって選択肢が増えるということは良いことではないだろうか?

Square Rootsは、大消費圏でありながら未活用の土地も見受けられるブルックリンから始め、今後は全米主要都市での展開を計画しているという。都市部における生産・消費のデータ化、エネルギーの利活用にも有効で、オフィスレベルでの栽培も可能になりそうだ。

2050年には世界人口の7割が都市部に住むことになる。遠方から取り寄せる食材に頼るのでなく、「ローカルに食べる」というトレンドはさらに高まっていくだろう。それに並行して、とっつきにくい食物生産のあり方はプロセスエンジニアリングとバイオテクノロジーによって健全に進歩していくべきだ。これから都市と消費者の嗜好は大きく変わっていくだろう。

文=本多正俊志

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