ビジネス

2018.06.30

ポジティブ思考の限界 ネガティブさえも受け入れる「自然体」の重要性

Rawpixel.com / Shutterstock.com

これまで私の連載で紹介してきた、スポーツや企業における「ご機嫌力」は、心を揺らがず・とらわれずの自然体な状態に自ら整えるための「ライフスキル」である。

このライフスキルの特徴は、通常のストレス対策としてよく知られるストレスコーピング(=ストレスへの対処法)とは明らかに違う。ライフスキルは思考そのものを指すため、行動解決のストレスコーピングとは異なる。

ストレスコーピングでは、例えば好きな物を食べたり、好きな趣味に没頭したりすることによって気分転換することを促すことが多い。たしかに、ストレス対策としては重要な発想だが、いつでもどこでもできるわけではなく、必ず時間やモノなどの制限要素が加わってしまうため、万能ではないのだ。

一方で、ライフスキルは、自分の好きなことをただ考えたり、自分が機嫌良くなるとどうなるかをただ考えることで、自分の心にご機嫌の風を吹かせる。それは思考という、脳の習慣といえる。好きな食べ物を食べなくても、考えるだけでα波が生じて脳内環境が変わり、結果的に心の感じ方にも変化を起こす。外界との接着がなく、実際に行動をとる必要もなく、思考するだけで心を整えるスキルがライフスキルなのである。

さらにいうと、いわゆる「ポジティブシンキング」とは全く違う。私が思うに、ポジティブシンキングは百害あって一利なし。ポジティブシンキングとは、外界に対する自分の意味づけを良いように考える思考の技術のこと。結局は外界に接着しているし、本来の自分が持っている意味付けとは異なる、良い意味付けを無理矢理する思考法に過ぎない。

つまり、ボジティブ思考は全くご機嫌でも、自然体でもない。おまけにポジティブシンキングでやりくりしている人は、ネガティブな思考や人を嫌い、ポジティブな状態のみを極端に肯定する傾向がある。人生も仕事も、そして人の感情にも様々な起伏があり、ポジティブな面だけで生きて行くことなど不可能だ。実際に存在するネガティブなことを否定し、それに蓋をして覆い被せている状態では、結局ストレスは心の奥底に内在したままで解消はされていない。個人的には、ポジティブ思考の人の方が鬱になる傾向は高いのではないかとすら思っている。

私が提唱するライフスキルは、こうしたポジティブシンキングとは一線を画す。人はそもそも自然体でいるだけで、本来みな前向きなのだ。様々なものに勝手にとらわれていくから、自ら前向き状態を阻害してしまうのだ。というのも、ライフスキルは「気づき」と「考える」を習慣化することで身につく思考法であって、自分の外の世界でおきている出来事に心は左右されない。

自分の機嫌に気づいて、機嫌のよいフローの価値を考えること。これだけで心の落ち着きがやってくる。機嫌が悪い自分より、機嫌がよい自分は何かできるのか。ご機嫌な状態であることの価値を考える思考だ。

しかし、このライフスキルは日ごろから習慣化していないと身につかない。過去や未来の出来事に心が揺らぎ、とらわれている自分に気づき、「今に生きる」と、思考で心をリセットすることが大切である。

多くのビジネスパーソンは、結果に重きを置きすぎるあまり、心に揺らぎが生じてしまうことが少なくない。まずは自分自身の心の状態に気づき、脳のごちゃごちゃした暴走を鎮めること。結局ライフスキルとは、ストレス状況に対するソリューションではなく、「自分の機嫌は自分で取る」という脳の習慣に他ならない。スポ―ツではこの力がないと活躍できないことは自明の理だが、ビジネスパーソンもその例外ではないのだ。「ご機嫌力」を身につけた自然体の人が増えること心から願っている。

ライフスキルのまとめ

1. 自分の機嫌に気付き、フローの価値を考える
2. 過去・未来にとらわれた自分に気づき、今に生きることを考える
3. 結果を重視しすぎる自分に気付き、一生懸命楽しむことを考える

連載 : スポーツ心理学で紐解く心の整え方
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文=辻秀一

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