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2018.07.05 08:30

人々の心を動かすマクロン大統領の「言葉の力」


本書の中でマクロンは、フランスが抱える問題点を多岐にわたって挙げている。それは長い時間をかけてフランス社会に根づいてしまった悪しき慣習であったり、人々の手足を縛りつけている思考のフレームであったりする。

だが、それらを目にする時、読者は不思議な感覚にとらわれるだろう。

「これは本当にフランスの話なのだろうか?」

そんな疑問が浮かんでくるはずだ。

「私たちフランス人は立ち止まったままである。不思議なことに、行動を起さずにじっとしているくせに、動かないことに満足できずに苦しんでいる。何かにとりかかろうとするとすぐに、フランス風のやり方を安売りするのかという告発の声が上がる。だが、フランス風のやり方などいまや機能していないではないか」

「フランス人は失敗を公然と非難する一方で、成功には野次を飛ばすというパラドックスを繰り返してきた。子供たちには失敗への恐怖心が刷り込まれている。学校では失敗した生徒を、優秀な生徒はこうあるべきだというただ一つのモデルに無理やりはめ込もうとする。その結果、青少年は自信を失い、思い切ったことをするのが怖くなる」

どうだろうか? 「フランス」という言葉を「日本」に変換すれば、これらの指摘はそのまま、ぼくらの社会にも当てはまる。

フランスは「一つのプロジェクト」

本書には「アンガージュマン」という言葉がたびたび出てくる。“政治の季節”に青春時代を送った年配世代には馴染みのある言葉かもしれない。

「アンガージュマン」とは、戦後フランスを代表する作家で哲学者のジャン=ポール・サルトルらが提唱した言葉で、「政治参加」や「社会参加」を意味する。かつては実存主義者たちの合言葉だった、このいささか古めかしい言葉を、マクロンは現代に再び召喚しようとする。

マクロンは言う。「フランスは一つの国家であるとともに、一つのプロジェクト」なのだと。国家とは、個人が集まってつくりあげられるプロジェクト、つまりは人為的なものだ。だからこそそれは、ひとりひとりの「アンガージュマン」によって、つくり変えることができる。さすがはフランス革命の国、と言いたくなるが、マクロンが述べていることは、すべての民主主義国家に当てはまる。むろん日本も例外ではない。

それにしても本書のレベルの高さには驚かされる。政治家の本といえば、「偉大な国」や「美しい国」といった、感情や情緒には訴えかけるもののその意味するところは曖昧な言葉を並べがちだが、本書はその手の本とはモノが違う。

マクロンは学生時代に哲学者のポール・リクールに個人的に師事する幸運に恵まれた。自身を“巨人の肩の上に乗った小人”になぞらえるこの謙虚な哲学者は、マクロンに世界の見方を教えた。自ら「知的な見習い期間」と懐かしく振り返るこの幸福な師弟関係の中で、マクロンは、感情に流されることなく、理論と現実との間を往還しながら、思想をつくりだしていく生き方を学んだという。

マクロンが熱く語る言葉には、青臭い理想論といえる部分もあるかもしれない。だが、他者の心に訴えかける強い力を持っているのは事実だ。まるで「いまこそアンガージュマンしよう! 一緒にやろうよ!」と呼びかけられているかのようなのだ。

翻って日本はどうだろうか。政治家の世襲制が当たり前のようになっている中、ここまでの言葉を持った人物はいるだろうか。

本書を読むと、「言葉の力」についてあらためて考えさせられる。人の心を動かし、何かを変えたいと望むすべての人に読んで欲しい一冊だ。

読んだら読みたくなる書評連載「本は自己投資!」
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文=首藤淳哉

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