人々の心を動かすマクロン大統領の「言葉の力」

フランスのエマニュエル・マクロン大統領(Photo by Thomas Lohnes/Getty Images)

いつからだろう? 国際政治の舞台で幅を利かせる政治家たちを目にするたびに、なかば反射的に映画の配役をイメージするようになったのは。ジャンルはきまってマフィアものだ。

トランプ、習近平、プーチン、金正恩……。どの人物も、間違っても恋愛映画や人情ドラマが似合うキャラクターではない。そんな濃い役者たちが、「我こそは主役」とばかりに互いを押しのけあいながら、グイグイ前に出ようとしているのが国際政治の大舞台である。悲しいかな、そこには高潔な人格や見識で他を圧倒するような人物は見当たらない。

そんな中、彗星のごとく現れたのが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領だ。オラオラ系の役者ばかり目につく中で、そのスマートな佇まいは水際立っている。いま、この政治家のことが気になって仕方ない。

マクロンの問題意識とは

エマニュエル・マクロンは1977年生まれ。2017年の大統領選挙で、極右政党・国民戦線を率いるマリーヌ・ル・ペンを破り、39歳という若さで第25代フランス大統領に就任した。

その経歴は華々しい。パリ第10大学で哲学を専攻し、パリ政治学院や国立行政学院を卒業。投資銀行で金融の知識を身につけた後、若くしてオランド大統領の側近となり、2014年には経済・産業・デジタル大臣に就任。「マクロン法」の名で知られる経済改革法案を成立させるなどの実績をもって、2016年に政治グループ「前進!」を立ち上げ、大統領選に打って出た。

マクロンの登場は、戦後フランス政治史の中でも画期的だった。

フランスでは1965年以来、右派の共和党と左派の社会党が交互に大統領を輩出してきたが、2017年の大統領選挙ではついにこの流れが断ち切られたのだ。

いったい何が支持されたのか。それを知りたければ、マクロン唯一の著書、『革命』(ポプラ社)を読めばいい。

この本はいわゆる政策パンフレットではない。若きグローバル・リーダーによる思想書だ。マクロンが世界をどう見ているか。どんな問題意識を持ち、どのような未来を構想しているか。その視点は、日本の読者にも極めて有益な示唆を与えてくれるだろう。

本書は、ひとつの認識で貫かれている。それは、現代が根本的な転換期にあるということだ。

マクロンはそれを「世界規模の資本主義の最終段階」と位置づける。過剰な金融化や格差の拡大、世界的な人口爆発、テロや環境破壊による移民の増加、デジタル技術の進化など、マクロンの現状認識はきわめて正確だ。

「印刷技術の発明やアメリカ大陸の発見」「西洋諸国で起きたルネッサンス」にも匹敵するような大きな変化に、私たちは見舞われているのだ。

この巨大な変化からは誰も逃れられない。ならば、どうすればいいか。「ロジックを根本的に変えて、思考、行動、進歩のプロセスを一からつくり直すこと」が必要だ。
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文=首藤淳哉

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