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2018.06.28 11:00

「日本からラグジュアリーを発信する」 野澤隆之 安田造船所グループCEO

野澤隆之 安田造船所グループ CEO

野澤隆之 安田造船所グループ CEO

日本は四方を海に囲まれているが、海をラグジュアリーに楽しもうという文化はまだ小さい。海を中心にさまざまなラグジュアリービジネスを展開してきた男が、そこからの脱却を目指す。


「みんな海のことを知らないんです。自動車や時計、不動産なら相場感があっても、海が関係すると途端にわからない人が増える。だからやらなければいけないと考えます。背水の陣という言葉がありますが、仮に追い詰められたとしても、私には海があり、船がある。自由があるのです」

1910年に創業した安田造船所を中心に、さまざまなラグジュアリーブランドを展開している安田造船所グループのCEO野澤隆之は語る。

「海が好きになったのは26歳くらいかな。不動産の仕事をしていましたが、時間があったので、小さな船を買って海に釣りに出るようになった。気持ちよかったですね。どんどんのめり込んで、大型船へとステップアップしていきました。釣る魚も大型化してカジキが中心となり、船でのクルージングの範囲もだんだん広がっていきました。そうすると今度は、日本のクルーズ環境が抱える問題点も見えてきました。そういうときは傍観者になるのではなく、率先して変革していくのが好きなんです」

その性格がビジネスへとつながった。企業再生やコンサルティングという仕事がきっかけとなり、安田造船所の再生を担うことになったのだ。

「まずはプレジャーボートのメンテナンスから始め、輸入や建造に進みました。苦しくとも楽しかったですね。造船所は船の設計も製作も修理も何でもできますから、よい仕事をしていれば、それが評価になる。その結果、優良顧客に出会うこともできました。そのあとに始める自動車ビジネスも、考え方は一緒ですね。アトランティックカーズでは100%レストアできる体制をつくるために、ヨーロッパの工場に研修に行かせるなどして、とにかくスタッフを育てました。結局、それが顧客の安心感につながる。ラグジュアリービジネスは、すべて人にかかっているのです」


イタリアを代表する高級クルーザー「アジムット」の日本総代理店を務めている。クルーザーの平均価格は4億円。


アストンマーティンを中心にビンテージカーを取り扱う「アトランティックコレクション」。メンテナンスやレストレーションは、自社のサービスファクトリーで行うため、安心して購入できる。

2015年からはイタリアの最高峰家具ブランド「B&B Italia」の販売権も取得し、青山にショールームを開いた。

「B&B Italiaは日本市場で苦戦していました。そこでイタリア本国からオファーがあり、日本でやってくれないかという話になった。子どものころから建築も家具もインテリアも大好きでしたし、ブランドと向き合いながら仕事をしていくというスタンスにも興味があったので、引き受けることにしました。B&B Italiaの家具を購入する顧客は、とても客層がよいのです。広い家に住み、見せびらかすわけじゃないけどよいモノを好む。こういう人々と出会えたのは大きな財産ですね」


東京・青山通り沿いにある「B&B Italia」のショールーム。イタリア最高峰の家具が優雅な空間に展示されている。

ラグジュアリーのその先へ

現在の安田造船所グループは、高級クルーザー(アジムット、バートラムなど)、ビンテージカー(アストンマーティン)、高級家具(B&B Italia)と、ラグジュアリーなライフスタイルを横断するかたちでビジネスを展開している。

「ひとつのことに特化して会社を大きくすると、バブル崩壊やリーマンショックなどの社会的な変動に対処できなくなる。しかし2億円の船、2千万円の自動車、200万円の家具はどれもが高級ですが、それでもセグメントは違う。ポートフォリオを分散することで、それぞれの影響を受けないようにしているのです。それに業種が多くなるほど忙しくなるので、仕事をしているという実感がわきますしね(笑)」

多忙を極める野澤が、いま熱心に取り組んでいるのが、海際のリゾート開発だ。


リゾート開発の足がかりとして、建設予定地を使ったイベント「下田ランデブー」を開催した。スーパーカーの展示やクルーズ体験もできる。今年は8月25日の開催を予定している。

「船オーナーの共通の悩みが、遊びに行く所がないこと。ヨーロッパであれば、きれいな港町に高級レストランがあって、高級ホテルに宿泊できる。しかし伊豆や三浦には、そういう場所がない。東京から気軽に遊びに行けるラグジュアリーリゾートがないのです。そこで安田造船所が所有する土地を利用してリゾート開発を行う計画を進めています。富裕層が集まることは地元経済にも大きなメリットがありますし、まずは地域をブランド化して“憧れ”をつくり、それからマスを呼び込むのが狙いです」

日本のラグジュアリー文化はこれから伸びていくと、野澤は考える。その核になるコンテンツは何かと問うと、「ホテルとアートでしょうね」と即答。野澤のビジョンはいつだって明確だ。


野澤隆之◎群馬県生まれ。大学卒業後、不動産ビジネスや企業再生プロジェクトに従事。1998年に安田造船所 代表取締役CEOに就任。その後、ビンテージカーやイタリアの最高級家具の販売、マリンリゾート開発などを手がける。ラグジュアリーなライフフタイルを愛し、自ら実践している。

文=篠田哲生 写真=奥山栄一

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