ビジネス

2018.07.04

ベストセラー作家が日本の経営者におくる、10年後勝つための提言


━では、こうした顧客の期待に応えるためには、どんな組織体制が必要ですか。

ウォルシュ:最も重要な点は、イノベーションが可能になるような組織をいかにつくるかということです。新しいテクノロジーをただ単に導入しただけでは十分ではありません。例えば、パソコンなどの事務作業を自動化するロボティック・プロセス・オ ートメーション(RPA)を導入する場合、 導入によって、いかに生産性を高めるか、 どうイノベーションにつなげるかが重要です。新技術を導入して何をしたいのか、どんな会社になりたいのか、次の段階を考えることが大切です。

新しい技術をイノベーションにつなげるためには、社員が協調しやすい環境を整えたり、業務のパフォーマンスを向上するようなデータを集めたり、一定のあいまいさや不確実性を許容できるような体制やマインドが必要になります。特にデジタル化された未来の世界では、時間はいまよりもずっと早く流れるようになりますから。

━経営者の姿も変わりますか。

ウォルシュ:その通りです。成功するリーダーは、恐らく二つの世界をまたがって生きていくことになるでしょう。二つの世界とは、人の世界とテクノロジーの世界です。

将来のリーダーは、人の複雑な感覚や感情、関係性を理解しながら「コンピューター型」の思考力を培う必要があります。 コンピューター型といっても、プログラマーを意味するわけではありません。より効果的にデータやアルゴリズムを使って、しっかりと構築された手順に基づき論理的に問題を解決できる能力です。

どのような仕事を自分自身で手がけ、どんな業務をAIや機械に任せるか。自身や会社の業務や組織をどうデザインしていく かが重要になっていくと思います。この時、「機械はクリエイティブではない」と考えていてはいけません。

━二つの世界を行き来しなければならないようになると、リーダーに求められる 条件も変わりますか。

ウォルシュ:スキルの性質そのものが新しいものになるでしょう。デジタル化を志向する世界では、リーダーの意思決定が正しかったのかどうかがすぐに分かってしまいます。リーダーの判断がどの程度適切だったのか、比較や測定も可能です。若い有能なリーダーを発掘するのもより容易になるでしょう。ただ、従来型のリーダーも心配しすぎる必要はありません。コミュニケーション能力や人に関わることについての能力は、将来、さらに重要性が増すと考えられるためです。

リーダーは若手と対話せよ

━アマゾンやグーグル、アリババ集団は、カリスマ性のある創業者が将来のビジョンを決めてきました。こうしたリーダーのいない企業は、どのように将来のビジョンを描けばよいですか。

ウォルシュ:ビジョンを決める上で対話するべき最も重要な人物は、組織内や顧客の若手です。企業にとって、将来の顧客がどんな姿なのかを考えてみてください。いま最も若い社会人が一番よく当てはまるはずです。個人の経験に照らし合わせて、 現実的なビジョンをつくる上で貴重な意見を聞くことができるでしょう。社内の若手と対話すれば、そのモチベーションを維持する上でも、問題意識を育む上でも、よい効果が期待できますから。


マイク・ウォルシュ◎トゥモロー最高経営責任者(CEO)。大学卒業後、マッキ ンゼーコンサルティングのスピンアウト会社XT3入社。デジ タルビジネスモデルの分析などを手がける豪ジュピター・ リサーチ設立、米ニューズ・コーポレーションのアジア太 平洋地域シニアストラテジストなどを経て現職。

文=池田正史 写真=ヤン・ブース

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