当時は1950年代で、印刷工房は経営的にカツカツでした。そこで彼はオーナーに、「もし私が年5万ドルを稼いだら、その半分をもらってもいいか」と持ちかけました。するとオーナーは無理だと思いながらも合意したのです。ところがテイラーはそれを成し遂げました。オーナーは「二度とごめんだ」と言ったものの、再び年25万ドルで話を持ちかけられると、承知してしまいます。テイラーはそれを繰り返し、店ごと買い取ったのです。
同時に彼はとても賢く、印刷ビジネスを効率化するために事業を多角化しています。その後、地元ミネソタ州選出の上院議員を務めた後、プロスポーツクラブのオーナーになるなど、遠回りしながらも、着実に成功を収めてきた人物です。
──ビリオネアでもウォーレン・バフェットのような上位0.1%の大富豪と、その他の富豪を分かつ特徴はあるのでしょうか。
スヴィオクラ:まず一つに、現状に満足せず、ひたすら挑戦し続ける点があります。例えば、IT起業家でNBAダラス・マーベリックスのオーナーであるマーク・キューバンはベンチャー投資こそしていますが、少し落ち着いてしまった感じがします。
次に、そうした大富豪のビジネスにはえてして「相乗効果」があります。ビル・ゲイツやウォーレン・バフェット、ジェフ・ベゾスの事業は、プラットフォームや持ち株会社などから成り立っており、ビジネスが互いにシナジーを働かせます。それにより、ビジネスが勝手に育つのですね。ただ、それは意図的に作り上げる必要があるので、やはり相応の努力が必要です。
──ゲイツやバフェットは寄付や慈善事業にも力を入れています。
スヴィオクラ:「成功」という点に限定していえば、悪事をなしてなお成功する人というのは必ず一定数いるものです。それでも今こん日にち、より多くのリーダーが成功を「世界にポジティブなインパクトを与えること」というふうに捉えています。特に、若い世代ほど、その意識が強いといえます。確かに、社会的な責任について考慮せず富を築くことは可能です。しかし、リーダーとして成功するには、社会的に責任ある行動が求められるようになっています。
──成功の定義が変わってきている、と。
スヴィオクラ:特にリーダーが社会的責任について考えることで、より優れた人材を惹きつけられるようになりますし、コミュニティから支持してもらえるようになるでしょう。この点は過小評価されています。
自分のビジネスのみならず、社会問題にも対応しなくてはいけません。こうした問題はいずれビジネスにも影響を与えるわけですから。
ジョン・スヴィオクラ◎コンサルティング企業PwCのパートナー。元ハーバード・ビジネススクール助教授。30年以上にわたって、エグゼクティブ・リーダーシップとマネジメントについて研究してきた。著書に、PwC初となるビリオネア研究をもとに上梓した『PwC公式調査でわかった 10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか』(邦訳:ダイヤモンド社刊)など。