ビジネス

2018.06.27

スーパーデザイナー時代の終焉、いまデザイン業界に何が起きているのか?(前編)

グッドパッチCEO 土屋尚史


坪田:どういうことでしょうか。
 
土屋:僕がデザイナー出身ではないので、経営面では「デザイン会社を経営する」という視点を持ちすぎないように経営を行なってきました。僕らが得意としているデジタル領域でのUI/UXデザインというのは、過去のデザイン業界での固定観念が必ずしも通用しない。むしろ邪魔になる領域です。

また、デザイン会社でありながら自分たちのプロダクトも作り、成長させていくということも目指していたので、デザイン会社とスタートアップの両方を掛け合わせたようなカルチャーを醸成できました。そういうデザイン会社は過去にはなかったのではないでしょうか。
 
坪田:数年前、アプリ開発といえば受託会社が、デザインから開発まで一手に引き受けることがほとんどでした。アプリのデザインのみを引き受ける会社はなかったと思います。グッドパッチがUIデザインに振り切った後、Standard Inc.などのUXデザインをメインにする企業が登場してきた印象です。
 
土屋:この頃から、DeNAなどの大手企業も、UI/UXを重視し始めたように思います。

マスマーケ思考からユーザーニーズ思考へ
 
土屋:そして昨今、UI/UX領域やマーケティング領域においてユーザーインサイトが重視されるようになったのは、サービスをリリースして終わりではなく、サービスとユーザーが長く関わり続けなければいけない時代になったからです。ファンになってもらうことが重要になってきました。
 
坪田:昔みたいにマーケターが一生懸命市場調査をしても、需要を的確に捉えることができない。「これなら絶対に流行ります」と断言できなくなりました。5年前は情報摂取先が限定されていたので、マスの反応を伺えば流行らせる事ができた。スマホの登場以降、情報量が膨大になったのと、テクノロジー進化のスピードが早すぎる。
 
結果として、不確実性を潰すためには早いサイクルで検証しながら実装しなければいけなくなりました。インサイトの把握からプロトタイプの開発までを一気通貫で行い、その後ユーザーテストして肌感をチームにインストールしていく。これは既存のマーケティングリサーチとは全く質が違います。
 
大事なのは「チームにインストールする」ということ。「デザイン思考」など言葉はさまざまありますが、要は手を動かす人がきちんと思考を理解しないと素早く動けない。
 
デザイナーを社内で育成したり、開発パートナーを早くから巻き込んだりすることで、カルチャーを作りながら開発していく必要がある。頭脳と実務みたいな形で分業すると、情報精度が下がるし何より技術者のモチベーションが落ちる。その結果想定していたプロダクトが出来上がらない。ニーズを最速でキャッチアップして動けるチームをつくるところから、デザインのプロセスは始まっていると思います。
 
土屋:最近の若手デザイナーは優秀ですが、特に20代半ばよりも下の世代はこれまでのデザイナーとは全く質が違うように思います。
 
物心ついたときからiPhoneを筆頭にスマートフォンがあり、デジタルに触れ続けているため、「デザイン」として捉えているものが違う。僕らの世代にとって、デザインとは動かない物理的なプロダクトでした。絵を描くのが好きだからデザイナーになったという人が大半だった時代です。
 
いまは美術大学出身ではなく、経営や経済、法学などデザイン以外を学んだ人がデザイナーになることが増えていますね。そういうデザインバックグラウンドがない人の特徴としては、バランス感覚がいい気がします。彼らはデザインを局所的なものとしてではなく、広い範囲で捉えている。5〜10年後にはマーケットを牽引するリーダーになってくれそうな感じもする。デザイン領域には、相当いい時代なのではないでしょうか。
 
坪田:そうですね。実際、大企業の経営層と話していても多くの人がデザインやUXやデザインの重要性を理解しています。とはいえ、実際にそうした人材を取り入れてもうまくワークしないことも多い。これからは、この部分が課題になるはずです。
 
後編に続く)


土屋尚史◎株式会社グッドパッチ 代表取締役社長/CEO。サンフランシスコに渡り海外進出支援などを経験した後、2011年9月にグッドパッチを設立。海外拠点として、ベルリン、ミュンヘン、パリにオフィスを展開している。スタートアップから大手企業まで数々の企業をデザインの力で支援し、自社開発のプロトタイピングツール「Prott」はグッドデザイン賞を受賞。経済産業省第4次産業革命クリエイティブ研究会の委員を務め、2018年にはデザイナーのキャリア支援サービス「ReDesigner」を発表し、デザイナーの価値向上を目指す。

構成=野口直希 写真=小田駿一

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