香港在住のグルメな友人たちのなかには、美食を求めてマカオに行くという人が少なくない。「いやいや、香港こそ美食の街でしょう」という筆者の問いに、「マカオのほうが、美味しいものを手頃な値段で食べられる」という返事が返ってきた。
「美食大国の香港から、わざわざフェリーで往復2時間もかけて行く価値があるのか?」その疑問を解くカギは、カジノで栄えるマカオという街自体の特殊な事情にある。
カジノを併設するホテルでは、レストランはカジノ利用者へのサービスという意味合いが強い。レストラン単独で収益をあげるのではなく、カジノ利用者に心地よく食事してもらえば、それが回り回ってホテルにとっても利益になると考えられている。
そのため、ホテル内のレストランは信じられないくらいリーズナブルだ。筆者もマカオのある日本料理店で、「今日の食材原価は78%」という信じられないような数字を耳にしたことがある。
さらに、マカオは、去年ユネスコの「食文化創造都市」に選ばれたこともあり、地域を挙げて「食」に力を入れている。だからこそ、美食家たちは、いまマカオを目指すのだ。
特別な日本酒だけが並んだ夜
そんな美食家たちが注目の街で6月、スペシャルな日本酒のディナーイベントが行われた。1994年以来ロンドンで行われているワインのコンテスト「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(International Wine Challenge、IWC)」で毎年1本だけ選ばれる日本酒の「チャンピオン酒」の蔵元が集まったイベントだ。
IWCに日本酒部門ができたのは2007年。きっかけは、現在IWCの日本のアンバサダーを務める平出淑恵が、有志の蔵元とともにロンドンで開催した日本酒講座。のちにIWCの審査最高責任者となるサム・ハロップが受講して感銘をうけ、「きちんと管理された高品質の日本酒を、もっと世界に知ってもらいたい」と設立した。参加数は今年、456社・1639銘柄と過去最高となり、いまや世界最大級の日本酒コンクールとなっている。
コンクールでは、出品された日本酒はブラインドテイスティングの後、金銀銅のメダル受賞酒が選ばれる。その金メダルの酒のなかから、9つのカテゴリーごとに「トロフィー」と呼ばれるナンバーワンの酒が選ばれ、そのトロフィーのなかから、さらに選定されたナンバーワンの酒が「チャンピオン酒」となるというわけだ。
IWCの最高責任者、アンドリュー・リードとイベントディレクターのクリス・アシュトンも英国から訪れた
今回のディナーイベントは、日本人初のマスターオブワイン(ワイン業界における最難関の国際資格)で、IWCの日本酒部門の議長でもある大橋健一が、そのチャンピオン酒8本に、日本料理と中国料理を組み合わせるというもの。
会場は、カジノを併設する複合リゾートホテル、ウィン・パレス。参加はチケット制で100席以上が用意されていたが、1900マカオパタカ(約2万6000円)のチケットは瞬く間に売り切れた。