「『ORBIA(オルビア)』は“洋食とペアリングするための日本酒”という明確なコンセプトを掲げ、1年かけてじっくりと開発しました」
その結果、販売初年度にして前回の商品の10倍にあたる1万本の販売に成功。ヒットのきっかけは、意外にもSNSを含めた一般ユーザーの口コミだったという。
「ミシュランで星を獲得するお店で提供していただくことによって、『あのお店が扱っているんだから間違いない』といった付加価値をつけることに成功したのです。一般的な日本酒と比べれば、2倍以上の値段になりますが、それもハイエンド向けというターゲット戦略のひとつと考えています。嗜好性の高いクラフトなものとして、その価値をわかっていただける方に飲んでいただくことで、自ずとシェアが広がっていきました」
値段は高くても既存のものと明確に違うものをつくる、ユーザーのチャンネルを絞るなど、付加価値の付け方を抜本的に変える戦略に成功したWAKAZE。
『ORBIA(オルビア)』『FONIA(フォニア)』の2つのブランドで日本酒のラインナップは現在6種類に増え、生産量も今年は3万本ほどを計画している。
WAKAZEの今後の戦略
生産量も大幅に増え、委託醸造での戦略が波に乗ったタイミングで発表された醸造所設立と自家醸造の開始。固定費がかからないフレキシブルな運営で成長しているWAKAZEが、なぜこの決断を下したのだろうか。
「情報発信と製品開発。2つの側面でメリットがあると考えます。まず、山形ではなく東京に醸造所を作ったのは、発信力を強めたいという意図がありました。情報を発信していく上で、山形ではどうしても届きにくく、メディアの方も足を運び辛いですよね。2020年に東京オリンピックが開催されることで、東京という街そのものに注目が集まりますし、海外からの訪日客も見込めます。
タイミング的にも東京に出すのがベストだろうと考えました。バーを併設したのは、開発的なメリットがあると考えたからです。これまで、WAKAZEではレシピ作成するのみで、小規模生産での開発(試験醸造)、生産を委託してきた背景がありましたが、少々手間がかかります。やはり試験醸造の部分を内製化できた方が、効率的です。
思いついたレシピをすぐ試験醸造できる、なおかつバーを併設してお客様から直にフィードバックをいただきながら改良もできますよね。高回転で開発タームを回せるこの環境は、私たちにとって必要なものだと考えました」
通常、酒蔵で日本酒を作る際には数千本単位となるため、失敗した際のリスクが大きくチャレンジがしにくい。しかし、「WAKAZE 三軒茶屋醸造所」では、200リットルのタンクで300本という小ロットでの醸造が可能。比較的低リスクで、チャレンジングな日本酒を醸造できる環が整った。
クラフトビールやワインの世界では、委託醸造のつぎのステップとして自社醸造のみでの運営を目標としている。しかし、酒税法や免許の問題から国内で清酒免許を取得することが実質不可能だ。
そういった観点からも、日本酒業界では完全な自社醸造を目標にする必要がないと稲川は語る。
「完全に自家醸造に切り替えるというわけではなく、むしろ委託醸造をさらに増やしていくつもりです。醸造所があることで、これまで以上にレシピを開発しやすい環境になりました。日本酒を世界に広め、マーケットをさらに大きくするためにも試験醸造まで行ったものを委託する、“新しい酒づくりのあり方”を提示していきたいと思っています」