国際モータージャーナリスト「ライオンのひと吠え」




ではそんなI-PACEとは、いったいどんなクルマか? 一言でいえば、超ゴージャス! 3月にジュネーブで軽く試乗した時、そのセクシーなプロポーションと上質で近未来的なインテリアにとても感動した。

今、市販されている美しいEVとして、I-PACEはテスラ・モデルSと競うことになる。もちろん、バカ速(ルディクルス)モードを備えたテスラ・モデルXほど速くはないとはいえ、静止状態から時速100kmまでわずか4.8秒と立派なもの。

撫でるように軽くアクセルを踏むだけで、即座に加速し、4WDの安定性が目立つ。ちょっと眉をしかめたのは、EVだからエンジン音がないのを補おうと付けられた合成音で、「穏やか」と「ダイナミック」という2つのモードがある。でも、こんなに美しいEVだからこそ購入し、EVだから静粛だと知っていれば、わざわざこの人工的な音は必要だろうか、疑問に思う。当然、僕はすぐに切ってしまった。

でも、驚いたのは、I-PACEの走りだった。I-PACEは、フレームの低い位置に2つの電気モーターとインバーター、バッテリーパックを収めているので低重心で、コーナリング中もロールせず、フラットな体勢を保つことができる。ステアリングは中心では軽く感じるものの、左右に傾けるほどに気持ちよい重さがあり、しっかりとしてニュートラルで、ステアリングフィールが正確だ。

そう、テスラ・モデルXのステアリングを凌ぐと言ってもいいくらいだ。コーナリング中は、モーターたちが賢く前後のトルク配分を調整し、最大のトラクションを保ち、ドライバーの選んだラインをキープしようとする。



ここまで褒めるなら、I-PACEは完璧なSUVなのか? というと、そうとは言いきれず、テスラ・モデルXも同様だが、ブレーキはI-PACEのアキレス腱だ。

初期のペダル・フィールは柔らかく、踏む途中からペダル剛性が増すが、多少合成的ではあると言える。もちろん充分利くけれど、慣れるのに少し時間がかかる。

一方、独特の運転方法もある。日産リーフなどと同様、I-PACEもスロットルから足を外すと、自動的に減速して自然に停まる方式のアクセルペダルを採用している。やりながら慣れなくてはならないが、たいていの状況ではペダル1つの操作ですむから、分かってしまえば問題ない。それに、将来のEVではこれが標準になることを覚えておいて欲しい。

テスラが登場して以来、同社が作った高級SUV系EVというニッチ(市場隙間)に参入した者はほとんどいなかった。そこへI-PACEが挑戦状を叩きつけた。イーロン・ムスクからスポットライトを奪うことはないだろうが、モデルX 75Dより100万円安く、630万円程度(米国での比較)のI-PACEは当然、選択肢の1つだ。

特にテスラ・モデル3が生産量で苦戦している今、I-PACEは強敵となるに間違いない。販売開始は来年の春以降だそうだ。

国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
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文=ピーター ライオン

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