AIによる「命日予測」がうまくいかない5つの理由

Shutterstock.com


この製品は(1)「総負荷量」という観点では素晴らしいものです。健康は多くの人に価値がありますし、医療全般大きな市場を形成しています。「人が健康に悩む負荷」「医師が判断を迷う負荷」をAIで代替させられるのであれば大きな価値を生むでしょう。

しかし問題は(2)「同質性」以降のチェックポイントです。例えば一般に医療のデータを分析すると、喫煙は死亡率の上昇を招く結果が示されますが、「ヘヴィスモーカーだけど100歳近くまで長生きした」という人がいないわけではありません。あるいは「末期がんで余命数ヶ月と診断されてから十年ぐらい生きた」という人だっていないわけではありません。

つまり、人の体質は多様で、体内のメカニズムは複雑で、いかに精巧なAIと言えども大外しをしてしまう難しい問題であるわけです。

そして(3)の「責任性」という観点に立つと、「5年後確実に死ぬなら貯金を使い尽くして遊び惚けよう」と考えた人が、その後も長生きすることになった場合など、この大外しの責任は大きな問題になってきます。

あるいは(4)の観点つまり「有効性」を見てみましょう。将来いつどんな病気になるか、ということだけを仮に正確に当てられたとして、わざわざお金を払うほど喜ぶ人はいません。知りたい「有効」な答えは、例えばその病気の予防のためにどう生活を改めればよいか、という話ですが、画一的に「野菜を食べましょう」「運動しましょう」という情報だけを提示されただけで生活を改められるほど人は単純ではありません。

同じ野菜を食べさせるにしても、「ラーメンにネギのトッピングを頼みましょう」「定食に小鉢をつけましょう」「おやつに野菜スティックをとりましょう」などいくらでもメッセージは考えられますが、これは単語の組み合わせでAIに考えさせるには少し複雑な課題です。また、多くの単語の組合わせは、不自然で意味の通らない「有効性の低い」ものになってしまいます。

そしてこの「情報だけでは生活を改めにくい」という問題は、(5)の「感情価値」とも関係します。文面としては全く同じアドバイスであったとしても、付き合いの長い医師や家族が心配して言ってくれたのか、スマホのアプリが表示しただけのものなのかによって効果は大きく変わってくるでしょう。

このように、5つの観点を知っているだけで実際に製品を作りはじめる前からその問題や限界を議論することができますし、次回以降その問題をどう改善するかという考え方についても紹介したいと思います。

みなさんも、もし今後AI製品を作り出すような仕事に携わるのであれば、是非まずはこの5つの観点でアイディアを吟味してみて下さい。

文=西内啓

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事