セサミの投資先はすでに40社以上に及ぶ。児童や教師が自分専用の高品質な電子書籍デジタルライブラリーを利用できるようにするEpic!や、子どもたちがコンピュータのプログラミングを学べるキットを販売しているKanoなどだ。
「同じことばかりをくり返してきた内部の人間にやり方を変えることを無理強いしてもうまくいかない。そういったスタートアップと手を組んで内部の人間と彼らを交流させることで、新たな創造のひらめきが火花を散らすのだ」と、前述のカンター教授は言う。
セサミはさらにIBMとの協業にも着手し、人工知能「IBMワトソン」と番組のキャラクターを組み合わせることで、個々の未就学児童が自分にいちばん合ったやり方で学習を進められる、いわゆる適応学習の試作プログラムを完成させている。
慈善事業やソーシャルインパクト関連事業についてもうまく行っているようだ。2017年12月には、セサミ・ワークショップと国際救援委員会の協働によってシリア難民や、ヨルダン、レバノン、イラク、シリアの子どもたち940万人を対象とするセサミストリート現地版の展開が開始された。これは、現地の人びとの文化や経験とより密接に響き合う早期幼児育成プログラムである。
すでにマッカーサー基金から5年間の助成金として1億ドルが拠出されており、このプログラムが実行に移される以前は全世界で人道支援に投じられる金額のうち教育に充てられるのは全体の2%にも満たず、しかも幼児を対象としたものはその2%のなかのごく僅かな金額でしかなかった。
「シリアの難民危機は目下喫緊の人道問題だ。シリア難民の子どもたちは、おそらく全世界でもっとも脆弱な立場に置かれており、彼らの暮らしを改善することを通じて、私たちは誰にとってもさらに安全で安定した世界を構築できるようになる」とダンは述べる。
この新たなプログラムはテレビ放送に加えてモバイルやデジタルの各種プラットフォームでも配信され、子どもたちの両親や診療所、児童発育センターなどを対象とした追加の教育コンテンツも提供されるという。
ダンはボストンの自宅からマンハッタンにあるセサミ本部まで往復8時間の鉄道通勤を毎週しているが、それへの不満はないようだ。「世界を実際に作り変える機会は、長い人生にもそうあるものではない。その貴重な機会に恵まれたのだから」と胸の内を語る。
しかも、彼はボランティアで働いているわけではない。2016年のダンの報酬は68万9000ドルとなっているが、その全額を受け取ることは辞退したのだと本人も語っている。「金はそれなりにあれば充分だ。しかし、傍観者のままでいるわけにはいかないのだから」。