リタイア後の生活を返上? セサミストリートを黒字転換させたCEO

セサミ・ワークショップCEO ジェフリー・ダン(Gettyimages)


ダンはハーバードの学期末レポートの執筆をしながら、10ページに及ぶレポートをセサミ経営陣に提出した。そして同年9月、内輪意識の高いセサミでは初めてとなる生え抜きではない経営トップとして雇われた。

その頃セサミは「財政、組織内文化、戦略のすべてにおいての方針転換を必要としていた」と指摘するのは、セサミにまつわるケーススタディを共著した経験もあるハーバード・ビジネス・スクール教授、ロザベス・モス・カンターだ。

ダンが振るった改革の大なたのなかでも、セサミの組織構造や文化に劇的な変化をもたらしたのは、2つのビジネスユニットを彼が創設したことだ。そのひとつは、各種財団や政府による拠出を主な資金源に慈善事業やソーシャルインパクト関連事業を運営するものである。

そしてもうひとつは、セサミのテレビ、メディア、ライセンス事業を取り扱うもので、決算表の最終行に至るまでに細かく目を注ぐことを運営方針としたこと。なぜなら「非営利だからお金を稼ぐ必要はないとか、損をしても構わないとか、そう誤解している人が多い。だが非営利とは税制上の概念であり、支出が収益を上回ればビジネスは継続できなくなるのだ」と、ダンは言う。

ダンならではのそうした新しい価値観が、大胆極まりない決断を可能にした。45年間にわたってセサミストリートは、公共テレビ放送の全米組織であるPBS(Public Broadcasting Service)を通じて放送され、数世代にわたる就学前児童がその番組でアルファベットを理解し、クッキーモンスターへの親近感を育んできた。ところが、PBSからテレビ放送権のために支払われる金額でまかなえるのは、製作費の10%にも満たなかったのだ。

そこでダンは2015年にHBOと交渉し、5年間のライセンス契約を締結した。HBOは骨太で時に暴力的でもある番組づくりで知られる有料ケーブルテレビ放送局である。HBOは、セサミの製作費のほとんどをカバーする大金を支払う(年間2000万ドルを超えるとみられる)とともに、新たに製作されたエピソードを9カ月間独占放送する権利を得ることになった。その期間の終了後には、PBSに属する各地の放送局が無料で同じ番組を放送できるようになるのだ。

「おかげでセサミの経営状況がすっかり好転した」とダンも述べる。「DVDをはじめとするマーチャンダイズでの収入減をそれが補ってくれ、我々は傷口の完全な止血に成功した」と彼が付言する通りに、2014年6月に財政年度末を迎えた段階で1億400万ドルの収益に対して1100万ドルの営業損失が発生していたものが、2017年には1億1850万ドルの収益に対して670万ドルの営業利益を計上するに至ったのだ。

ダンは収益だけでなく、セサミの他の問題点にも大胆に切り込んだ。教育をめぐるテクノロジーの進化とメディアの消費され方の変化にキャッチアップしようと試みたのだ。設立されて4年になるものの何の見込みも生み出せていなかった社内イノベーション研究所を閉鎖するとともに、セサミ・ベンチャーズを立ち上げ、児童の教育、発育、そして健康に的を絞った事業展開をするスタートアップ企業への投資を行うことにした。それにはハーバードでの経験が大きく影響していると彼は語る。

「私は学校に出かけて行っては子どもたちとともに腰かけて言葉のやり取りをした。その経験から痛感したのは、新たな芽はたいていスタートアップから出てくるもので、業界の既存プレイヤーからではないということだ」
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翻訳=待兼音二郎

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