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アマゾンなどのECサイトを利用する際、あなたはどんなキーワードで商品を検索するだろう? 多くの人は商品名ではなく、「コーヒー」「チョコレート」「洗剤」というようなカテゴリ名で検索しているはずだ。高岡は言う。

「これはブランドに対する意識が下がったことの表れではないでしょうか。世界を見回しても、先進国では企業主導のブランドメッセージ広告が消費者に届きにくくなっていると感じます」

ネスレ日本がショートフィルムで伝えようとしているのは、ネスレの商品が人々の生活に与える便益や世界観だ。15秒のCMでその雰囲気を伝えるのは難しいが、深く世界観を作り込めるショートフィルムでなら表現できると高岡は考えている。

だからこそネスレ日本は、ショートフィルムの制作時に作品や演出に細かな注文をつけない。一消費者でもある監督が自ら納得できる表現をすることで、押し付けがましくない、顧客に届くブランド演出が可能だからだ。

黒木瞳が監督した「わかれうた」は、黒木自身の実体験がもとになっている。青春時代の甘酸っぱい思いびととの再会、そして別れがコーヒーの香りによって想起される作品だ。黒木は言う。

「視聴者から寄せられた感想の中に『フィルムを観た後、コーヒーを飲みたくなりました』というコメントがあった」

これが、ネスレ日本の期待する展開だ。

国境がない時代だからこそ、ブランド化が必要

ネスレシアターでは、ハンガリーやカナダなど世界各地の優れたショートフィルムが公開されている。実際に観てみればわかるが、普段ほとんど接点のない国の作品であっても内容をすんなり理解できるし、思わず心を動かされるものが少なくない。物語が呼び起こす感動の力は、万国共通だ。逆に言えば、だからこそ日本発の作品がグローバルな影響力をもつことができる。

ネスレ日本が起用した岩井俊二は、日本以上に韓国での知名度が高い。長澤雅彦が監督した『halfway』は、パク・セワンなど韓国人を主要キャストに配した。「メイド・イン・ジャパンのキットカット」がアジア圏でブランドを確立できたのは、こうした作品の力が大きいと高岡は考えている。

アジア圏からの訪日外国人が、日本で「爆買い」するという動き自体は、いずれ収束するかもしれない。一方でアマゾンやアリババのようなECサイトの拡大は加速するだろう。高岡は言う。

「だからこそ、全世界に向けた企業のブランド化が必須なんです」

中国国内のECでネスレ日本の商品を買えるのなら、ドン・キホーテを訪れ帰国した後でも継続的に購入できる。しかし、そのためには抹茶味の「キットカット」がアリババに並び、中国人に選ばれるだけのブランド力を獲得しなければならない。ネットによって物理的な距離や時間が関係なくなり、商品ターゲットが世界規模に拡大しているからこそ、世界中に知れ渡る強いブランドが重要になっているのだ。

しかし、従来型の企業発のメッセージを伝える宣伝手法には限界がある。そこでネスレ日本が目を向けたのが、これまで芸術としての側面が強かったショートフィルムだ。

いまでは映画作家たちの登竜門としての役割が強いショートフィルムだが、そもそも映画の歴史は短編映画から始まっている。また、長編映画が主流になり始めた頃、長編作品とセットで放映されていたのが短編映画だ。そういう意味では、いま映画館で上映前に流れるCMの源流はショートフィルムだったのである。

ネスレ日本の活動は、広告を通じてショートフィルムを再び大衆娯楽に接続する試みでもある。CMが通用しなくなった時代の希望になるのは、そんな芸術と広告が結びついたショートフィルムなのかもしれない。

文= 野口直希  写真= 帆足宗洋

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