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2018.06.29

仏マクロン大統領の『革命』と教育改革

「革命」を出版したエマニュエル・マクロン仏大統領(2016年12月撮影、Photo by Getty Images)



UWC ISAK Japanでの授業風景

新設校のススメ


マクロン大統領は著書の中で、「画期的な新しいタイプの小学校、中学校、高校や教育施設を作ることを提案する人々に対して、どんな障害もあってはならない」とも断言している。

この主張を展開する段落の冒頭で彼は、「現実には、全ては、現場で働く主体を信頼できるかどうかにかかっている。最も興味深いイノベーションを研究し、組織し、資金を調達するためにも、現場に任せるのが最良の方法である」と書いている。この部分も、前回の記事で書いた通り、我が国で改善できる点が多いように思う。

平均的に学力を上げることには成功してきたが、特異な才能を見つけて伸ばす、あるいは先進的な取り組みを有機的に試すことができる環境を作る、といったこれから最も必要になる教育変革のためには、日本の「お上が決めて現場に下ろす」という発想が大きな障壁になっている気がしてならない。

初等中等教育においては、地方分権が進み都道府県に(教員免許や学校設置基準など)様々な特例を認める権限委譲がなされているが、それを活用して地域ごとにユニークな判断がされている事例は数える程しかなく、判断をしたがらない都道府県も目立つ。

文科省側では「都道府県の判断に任せていますから」といい、都道府県側では「文科省が定める原則に法って運営しており、特例は余程のことがなければ認められない」という状況が続いているように見える。その点、私たちの学校を認めてくださった長野県には改めて感謝を申し上げたいが、国として、この状況を抜本的に変えるためにできることはないだろうか。

高等教育は、自ら財源を捻出する努力も

マクロン大統領は、大学における自主財源確保の努力についても以下のように書いている。

「大学に対しては、教育方針と予算の使い道についてこれまで以上に大きな自主性をあたえなければならない。所得の極めて低い家庭の学生を真の社会援助によって守り、きわめて豊かな家庭出身の学生からは多少なりとも費用を負担してもらえるようにし、最高の教員にきてもらえる財源を得られるようにする」

奇しくも、私が初回に触れた高等教育のファイナンシングの問題である。高等教育も幼児教育も、無償化の議論が始まって久しいが、兼ねてから主張しているように、原則は「応能負担」であるべきだと考える。

所得の低い家庭への援助を厚くすると同時に、経済的にもう少し余裕のある家庭により多くの負担を要請していくことで、国家財政への負担を増やさずとも教育の質とアクセスを担保する術も、あるのではないだろうか。

また、卒業後の経済的リターンが大きい学部については授業料を値上げし、社会的な意義は大きいが必ずしも経済的リターンが望めない学部については授業料を抑えるなど、柔軟な学費設定ができるような工夫も一考に値する。米国の大学院のように、卒業生からの寄付に加えて、研究室ごとに独自に民間企業からファンディングを得る努力を推奨するなど、資金調達の方法もより多岐にわたって検討できるはずである。

こうした攻めの経営を実現するためには、これまでの高等教育のあり方に捉われず自由な発想で経営を行える首脳陣が必要であり、高等教育についてはやはりガバナンス改革が不可欠であるように思う。
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文=小林りん

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