5月29日にテレイグジスタンス社(Telexistence Inc.)とKDDIが、「遠隔操作ロボット量産型プロトタイプMODEL H」を共同で発表。上記はその最高技術責任者であるチャリス・フェルナンド(Charith Fernando)の言葉だ。
Forbes JAPANでは「MODEL H」の開発段階から取材を敢行。共同創業者兼CEOである富岡仁の活動を中心に、その社会的なビジョンを「輸送革命」として取り上げた。
一方で、その裏には開発者の「人型ロボット」をめぐる葛藤があった。ここではその「裏ストーリー」を紹介しよう。
「分身」をつくりだす技術
18年2月、日本科学未来館。筆者はテレイグジスタンスを試用する機会を得た。ヘッドマウント・ディスプレイを装着。目を開くと、一瞬前とは違った景色が目の前に広がる。手を挙げると、真っ白な機械の手が目の前に現れる。さらに首を振れば、視界の主の目線も同じように動く。するとその先に映るのは、自分と同じポーズをとる「自分」──。
そう、いま私はロボットに「憑依」している。「テレイグジスタンス」は離れた場所で自分と同じ動きをする「分身」をつくりだす技術だ。
それだけではない。テレイグジスタンス は「動作」「視界」「音」だけでなく「触覚」も共有する。機械の手と機械の手をコツンとぶつけると、その感覚がセンサーを通して自分の体に伝わってくる。
富岡はこの技術を「輸送革命」と捉えている。ヘッドセットを通じて世界中に設置されたMODEL Hで自宅にいながら各地を観光。店頭にいながら離れた位置にある倉庫の商品を点検することもできる。「移動」なしにあらゆる物事を経験できるのだ。
MODEL Hの技術開発を先導した人物が、チャリス・フェルナンド。大学院の頃からテレイグジスタンスに携わってきたスリランカ人だ。ロボットを愛してひたすら開発を続けてきた彼だが、そこには一つの「方向転換」がある。
理想は「人を助け、ときには人に助けられる」ロボット
「ヒューマノイドを作りたかったんです」
取材が始まってすぐ、チャリスはそう語った。日本のロボット業界には大きく分けて、人間の仕事を肩代わりする『産業用ロボット』とAIBOのように人間とのやりとりを目的とした『コミュニケーションロボット』、そしてASIMOのような人間の行動の再現を目的とした『ヒューマノイド(人型ロボット)』の3つがある。
チャリスは12歳の頃から基板いじりを趣味にする、ロボット好きな少年だった。高校生の頃にはすでにレゴ・ブロックで作ったロボットに電気を流して、日本でいう「ロボコン(ロボット・コンテスト)」に出てくるような作業ロボットを作成。ロボティクスを専攻した大学時代には、すでに大抵の作業ロボットをつくれるようになっていた。そこで興味をもったのが、ヒューマノイドだ。
なぜヒューマノイドなのか。それまである程度決まった作業をこなすロボットをつくってきたチャリスだが、彼はそれに満足していなかった。本当につくりたかったのは、人と協働できるロボットだったのだという。
「きょうは洗濯、明日は皿洗いというようになんでも対応できて、ときには一緒に会話してくれるようなロボットがいてくれたら……。『人を助け、ときには人に助けられるロボット』が理想なんです」