ビジネス

2018.06.19

来たる信用経済、わたしたちの生活はどう変わっていくのか?

山口揚平(左)、藤代健介(右)


藤代:たしかに居住者の数などで、広がりとしてのコミュニティ経営指標を数字で設定することはできるけれど、それだけだとコミュニティの深みがなくなってきてしまう。コミュニティ内の広がりと深さをどのようなバランスで運営していくのか。その答えは出ていません。

「社会関係資本」の深度について、例えば「子育てが楽になった」や「食生活が寂しくなくなった」など、居住者が幸福になるためにある程度の指標は必要です。

具体的にはまだ明かせませんが、ブロックチェーンやSNSを使ってCift内で「経済圏」をつくる構想もあります。やがてCiftの居住者が増えていったときも「意識家族」であり続けるために、記憶の拡張が必要だと思っているんです。この構想が実現すれば、コミュニティ内の「ありがとう」が可視化される状態が生み出せるしれません。

山口:「独自の経済圏」をつくるという発想は、非常に面白い。僕の専門領域は「貨幣論」ですが、仮想通貨の面白いところは貨幣を支える信用の土台」が壊れ始めたことなんです。

いままで信用を担保していた存在は「国家」であり、その信用を外部化していた対象が「貨幣」でした。しかし、仮想通貨の台頭によって、みんなが不動だと思っていた「円やドルなどの通貨」という信用への信頼が揺らぎ、いまは個人がICOやトークンの発行を通じて、信用を外部化できるようになっています。

そうなったときインターフェースとしての「貨幣」を持つよりも、なんらかの価値を創造して信用を得ることの方が大事になっていく。 価値は専門性や利他性によって創造されていくので、藤代さんの「Giveのマインドを測る」という取り組みは非常に興味深いです。

「数値」は人の意識を最も引きつけ、同時に文脈を破壊する

山口:お金とは信用を外部化(数字化)したもので、数字は人間の意識を最も引き付けるものだと思います。

しかし、その一方で貨幣は「断絶」を生む存在でもある。感謝を可視化する取り組みとして、「地域通貨の発行をしたい」という相談を受けるときは、「ろくなことにならないから辞めておいた方がいい」と断るようにしています。

藤代:それはなぜでしょうか?

山口:実は会計用語の「ファイナンス」は、ラテン語で「終わり」を意味する「finis(フィニス)」に由来しているんです。「離婚したときは慰謝料として相手にお金を払う」というように、人間関係の「最終言語」として使われています。

価値を貨幣に置き換えるほど、共同体の人間関係を断絶させてしまうんです。



藤代:なるほど。数字は思考や思想を分断します。

山口:だからこそ、家族に対して数字を使ってはいけない。たとえば、「家の掃除をしたらお金を払う」といったコミュニケーションをする家族は大抵、破綻します。数値化せず、言語化せずに価値と信用を流通させていかなければならない。

そのひとつの方法が「Giveの記帳」だと思っています。あげた、もらったを可視化していくだけでいい。

藤代:「ありがとうがどれくらいか」を定量化する必要はないけれど、「記録する」ことは大事だと。

山口:貨幣の起源を辿ると、「フェイ」という石に記帳していたことから始まっています。そこには「誰がどんな理由でなにをあげたか」が記録されていくのですが、それを貨幣で数値化しようとすると、「文脈」がなくなってしまう。

だから、「あげたものがどれくらいか」を測るのではなく、「あげたかどうか」を記帳していくことが必要なんです。

藤代:その瞬間においては「交換」という概念ではなく、単純に「もらう者とあげる者がいる」という、一方通行の「Give」が起こる、と。そして、記帳され続けるから「誰がGiverなのか」がわかる。面白いですね。
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文=奥丘ケント

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