スタバがまだない極東ロシアの「手づくりカフェ文化」

港に面したカフェマ中央広場店。手前のテーブルはウラジオストクを中心にした海外の都市名が記されている。


「起業の際に参考にしたのは、グーグルのやり方です。ビジネスへの向き合い方や、従業員を一緒に働くチームとして構築していく手法が素晴らしいと思い、グーグルのような創造的な活動を続ける企業をつくりたいと考えました。こうした企業には、魅力的で創造的なスタッフがいるものです。お客さんに心地よい体験を提供するためには、スタッフ自身が仕事を愛し、喜びを得なければなりません」

ヴィクトローヴィチさんはこう語るが、実はスタッフのマネージメントについては、日本の企業からも学んだという。

「日本では、スタッフの選抜と教育について、企業が高い関心を払っているのは知っています。重要なのは、適正や能力に応じてきちんと人を配置すること。その結果、スタッフは自分の担当する仕事を好きになり、質の高い仕事を追求するようになります。これは私に言わせれば、教育というよりは遊びに近いことだと思いますが、こういうやり方が大事だと考えます」

グローバルチェーンを知らないゆえの自由

ヴィクトローヴィチさんの話はふたつの点で興味深い。いまでこそ、ロシアでは海外と同じような質の高いコーヒーが市場に出回り、誰もが気軽に味わえる環境が生まれているが、そんなに古くからの話ではない。カフェがこれほど街に出現したのも最近の話といっていい。

近隣国に目を転じると、このようなシーンは上海あたりでは2000年代に入ってから、中国の地方都市で2010年代、極東ロシアでも同じ頃から始まっている。

いまでは、われわれの取り巻く世界はグローバルチェーンに席捲されてしまった感がある。そこで提供されるスマートなサービスや快適さを否定するつもりはないが、その存在を未だに知らない人たちだけが持つゆるさや手づくり感覚を自由に楽しむ姿が、いまのウラジオストクにはあるのだ。

さらに、ロシア人であるヴィクトローヴィチさんが、グーグルのようなアメリカ西海岸発の企業文化に心酔していることが面白い。国際政治的には険悪に見える米ロ関係だが、太平洋に向けて開かれたパシフィック・ロシアの地に住む人たちにとって、それはむしろ受け入れやすいものなのかもしれない。

そんなウラジオストクのコーヒー文化を知るには、7月6日から8日までグム百貨店裏の路地で開催されるコーヒーフェスタ(kofevostok2018)に行ってみるといい。豆や器具などを扱うブースが出店し、コーヒー文化に関するワークショップやセミナーもある。


ウラジオストクのコーヒーフェスタの様子

日本人の目からみると、それほど目新しいものはないかもしれないが、そこかしこにいかにもロシアらしいセンスが感じられるフェスティバルだ。

連載 : 国境は知っている! 〜ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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文=中村正人 写真=佐藤憲一 取材協力=宮本智

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