白米は悪いのか? フランス料理のシェフの疑問

未来のサッカー日本代表選手たちに差し入れした“日の丸”おにぎり

糖質制限、糖質ダイエット、白米は太る……近年こんな言葉をよく目にしますが、僕は日本人として、百姓の孫として、なぜか腑に落ちません。お米を食べなくて日本人なのか? なんて少しナショナリズム的な考えを持ってしまいます。

と思うのも、今から4年ほど前に面白いことがありました。

2014年3月、日本の国技である大相撲の琴欧洲関(現鳴戸親方)が引退を表明。それに際し琴欧洲関は、ブログに「ブルガリア人が日本に挑んで国技を通して学んだことを、今後も伝承していきたい」という旨を書かれました。

日本人としてフランスでフランス料理に挑んでいる僕は、その内容に感動し、また琴欧洲関の境遇や考えが自分と似ているような気がして、「一度直接お会いしたい」という思いから、フェイスブックでいま流行りの“ゆる募”をしてみました。

すると、知人に紹介していただくことができ、その後、佐渡ヶ嶽部屋で琴欧洲関と稽古を見て、一緒に朝食をいただくという機会を得ました。特製のちゃんこを食べながら、琴欧洲関がブルガリアから来日した頃に困ったこと、僕が海外へ飛び出した理由、今後のことなどなど……。食卓には、角界一の美食家と言われる佐渡ヶ嶽親方(若貴時代のハンサム力士、琴ノ若)も同席されていました。

そして食の話に及ぶと親方は、最近の日本の子どもたちについて「食が細く、怪我が多い」「甘いものが好きで、禁止してもこっそり食べてしまう」「ジュースばかり飲む」などその乱れや歪みに困っているとのこと。一方で海外から来る若者は、日本人以上に身体ができ、反骨心や向上心を持って貪欲に取り組むためいい結果が出る、という相撲業界の悩みもうかがいました。

これは日本企業のグローバル化における悩みや優秀な外国人の台頭と似ているのでは、と思いますが、今回は食事の話。



お米は甘くなければならない

実は、この日話を聞きながら食べていた朝食に、歪み改善のヒントがありました。気づいてしまった僕は、大勢の弟子に囲まれる中、大きな親方と琴欧洲関を目の前に、勇気を振り絞って伝えることにしました。

「この部屋には全国から届く米俵や米袋がたくさんあるのに、残念ながらご飯(お米)が美味しくないのはなぜでしょうか?」。そして、料亭や割烹の最後に出てくる“土鍋のご飯”の話をさせていただきました。

「もうお腹いっぱいで食べれない、というときに出される土鍋で炊かれたご飯の香り……あれを嗅いでしまうと、どんなに満腹でも『少しだけいただきます』と言ってしまいませんか? みずみずしく艶がある炊きたてのお米を食べると、その甘さにとろけて、『もう少しだけお茶碗に』なんて手が伸びる経験はないですか?」

こう聞くと親方は、「それはよく解る、経験あります」と納得されていました。

この話で何を伝えたかったかというと、ご飯(お米)は甘くなければならないということです。お米が甘ければ、おかずはしょっぱくても、酸っぱくても、辛くても、味の表現がはっきりしてる方が相性も良く、ぱくぱくと食が進むものです。例えば博多生まれの僕でいえば、幼少期は少しの明太子でご飯を何杯も食べていました。

ところが稽古後にいただいた朝食は、ご飯がまずく(苦い)、ちゃんこは甘く脂が多く、漬物は減塩で柔らかく、梅干しは酸っぱくなく……現代社会の食の傾向である“甘い=美味しい”になっているのが問題だったのです。
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文=松嶋啓介

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