年商280億ドル(約3.1兆円)を誇る化粧品最大手「ロレアル」も例外ではない。以前から傘下の「メイベリン ニューヨーク」「ランコム」「イヴ・サンローラン・ボーテ」などがAR技術を活用したメイクシミュレーションアプリを提供していたが、この3月、同社は次の段階に踏み出した。
それはAR技術を提供するカナダのスタートアップ「ModiFace」の買収だ。買収金額は明らかにされていないが、似たサービスを提供する中国の「Meitu(美図)」の時価総額は数十億ドルと言われている。ロレアル初となるテック系スタートアップの買収について、同社チーフ・デジタル・オフィサーのルボミラ・ロシェは次のように語る。
「私たちは美容の未来はサービスにあると確信している。人々はバーチャルにメイクを試せるアプリ、肌診断、インフルエンサーによるライブ配信といったサービスを強く求めている。美容業界におけるテクノロジーの重要性は増すばかりだ」
パリの「ステーションF」にも出資
ロレアルはこれまでもテック系の企業や人材の育成に力を注いできた。同社は2012年、サンフランシスコに美容テクノロジーに特化したインキュベーターを設立。使用者一人ひとりの肌色や肌質に合わせてカスタマイズできるランコムのファンデーション「Le Teint Particular」やスキンケア用品「CUSTOM D.O.S.E」、パッチ型の紫外線センサーなどはここから生まれた。
2016年には、ロンドンのアクセラレーター「Founders Factory」と組み、スタートアップ支援プログラムを開始。同プログラムを通じて、ノルウェー発のインフルエンサー・マーケティング企業「Talify」、ポーランド発のデジタル広告企業「Cosmose」、トルコ発のEC企業「Alegra」、リトアニア発の美容コミュニティアプリ「Veleza」などと提携を結んでいる。
また昨年は、世界最大のスタートアップキャンパスであるパリの「ステーションF」への投資を発表した。
「デジタル技術に国境はない。我が社に適したテクノロジーを探し出し、(その開発企業を)成長させる。そして単発のプロジェクトに取り入れるのではなく、インターネットも実店舗も含めたあらゆる局面で活用していきたい」とロシェは言う。
グローバル企業にとって最大の課題は現状を維持することだ。「生き残り、前進し続けるためには、起きている変化にその場で対応できる力が必要。変化に適応できなければ悲惨だ」とロシェは語る。