サッカーもビジネスも同じ 新興国のクラブ経営から学ぶ「プロ意識」の育て方

ナイジェリア、カンボジアのサッカークラブ経営から学ぶこと


2つ目は、プロサッカー選手の「定義」を変える。カンボジアやナイジェリアはストリートサッカーが盛んな国で、選手の中には遊びの延長線でプロになった人もたくさんいます。それ自体は悪いことではないですが、一方で彼らにはプロ意識が欠けていると感じました。

そこで、プロサッカー選手がどういう存在なのか、プロとはそういう存在であるべきなのかを、選手たちに直接話をしました。プロサッカー選手とは試合で優れたプレーをするだけではなく、観客や国民に夢と希望と勇気を与える存在である、と。

カンボジアやナイジェリアでは、サッカーは誰でも目指せるスター職業として多くの人たちにとって憧れの職業です。だから選手も、国民の憧れの的であるスターとしての自覚を身につけるべき。人格的にも優れた存在になることで、本当の意味でみんなに憧れられる存在であってほしいんです。これは成長動機と強く結びつく要素ですね。

3つ目は、「場所」を変えること。ホームをシェリムアップに移し、現地のファンがつくようにしました。これは観客増加のためだけでなく、選手のプロ意識を醸成するためでもあります。自分たちのためにスタジアムに通う人がたくさんいれば、選手もそれに恥じないプレーをするはずですから。

これまで好きだったサッカーをしてご飯を食べられる、というカンボジアサッカー界から、プロとしてのあるべき選手像を示したことで、新たな成長動機の刺激を心がけてきました。

組織の期待に応えるのが「プロ」

━━新興国でサッカークラブ経営をしていた加藤さんから見て、日本のビジネスシーンに何が必要だと考えていますか。日本人がプロ意識をもち、パフォーマンスを上げるためにはどうすればいいのでしょうか。

実は先ほどまで話していたプロ意識は、日本のビジネスシーンでこそ必要なものです。パフォーマンスを上げるために大切なのは、組織と従業員のビジョンが一致した状態で働くこと。自分のやりたいことができて、しかも組織の理想と一致すれば、過酷な働き方をしなくても無理なく成果を出せるはずです。

そのためには、企業側が自社のビジョンをはっきり示さなければなりません。私はカンボジアでもナイジェリアでも、クラブが目指す姿や、プロとしてどうあるべきかを直接話すようにしています。

また、組織のビジョンに合わない人が辞めやすい環境をつくるのも大切。従業員にとって解雇されやすい環境に対する忌避感は強いですが、その分、自分自身の価値を高める意識にも繫がりますし、長期的に自分に合う場所を見つけた方が良い結果につながるはず。

いまは時代の転換期。国全体が上昇傾向だった時代には、与えられた環境の中で結果を出せば自然に年収も地位も上がりましたが、いまはそうはいきません。自分で意思をもち、望んだ環境の中でそれを楽しむ「ライフワークシナジー」が重要になります。

━━低成長時代の日本で重要性が高まった「プロ意識」は、あらゆる環境で役に立つということですね。

サッカー選手もビジネスマンも根本は同じ。組織の期待に対して、それを超える結果で応えることでサラリーがもらえる。それが「プロ」だと思います。しかし今の日本では会社が何に期待をしているかが不明瞭だから、「応える」という意識も曖昧になっている。だからこそ、いま「プロ意識」を兼ね備えた人材は重宝されます。

クラブにおいて、この意識を徹底していると、現地の選手にもよく感謝されるんです。以前、とある選手に対し、残念ながら契約延長はできないと伝えた時、彼から「期待に応えることはできなかったけど、ビッグボス(オーナー)のパッションが確かに伝わってきた。僕はこれで引退しようと思うけど、タイガーにいた経験は一生物だよ」と言われたときは申し訳なさと、ちゃんと伝わっていたんだ、という思いで複雑でした。

まあ、実はその場では辞めるといいながら、彼は次のシーズンにはしれっと他のクラブでプレーしていたのですが(笑)。そういうしたたかさは、彼らから見習ってもいいかもしれませんね。

文=野口直希

タグ:

連載

Forbes Sports

ForbesBrandVoice

人気記事