「行政に興味のない市民に損をさせない」 和光市長が選ぶ道

和光市長 松本武洋


松本が地方自治に興味を持ったきっかけは、「平成の大合併」の時代にさかのぼる。2003年から2006年にかけて、3000を超える市町村が合併し、その数は結果的に約1800となった。

和光市でも、近隣の朝霞市、志木市、新座市との合併が激しく議論され、2003年4月に4市で実施された住民投票に、その判断は委ねられた。和光市民は4市のなかで唯一、反対を選択し、この合併は破談となる。

当時、住民投票に際しては、合併について賛成派も反対派も財政的なメリットがあると住民に訴えていた。その頃、経済系の出版社に勤めていた松本は、会計の書籍を編集するほど財政に精通していたが、賛成派と反対派の主張がわかりづらく、どちらが正しいかはすぐには判断することができなかった。

市議時代からプログを活用

この時、地方自治の一端を覗き見て、松本は市議を志す。行政はもっと税金を有意義に使えるのではないかと感じたからだ。また、住民投票の経験から、行政のお金の動きをわかりやすく住民に伝えるため、市議時代からいち早くブログなどを活用し、行政の財政問題を噛み砕いて発信した。

民間人の時には、行政に興味を持てない時期もあった。いまは自らが行政側の立場にあるからこそ、「市民が行政に興味を持った時に、調べられる状態にしていること」、そして「行政に興味がない市民にも損をさせないこと」が大切だと松本は言う。

後者の発言は特に新鮮だ。というのも、政治家は選挙で勝ち抜くために、本来、票を見込みづらい層の市民に対して慮ることは少ない。逆に票に直結する層には、積極的に政策を打ち出したりする。少子高齢化で、高齢者の有権者に占める割合が大きくなり、政治家がこの層に向けて政策をアピールしていく、いわゆる「シルバー民主主義」という現象も、その様相を顕著に示している。

「行政に関心がないことは悪ではない。むしろ、それが普通なのです」と松本はこともなげに言う。関心がない市民のニーズを把握し、施策を打ち出すということは決して簡単ではない。そのぶん難易度やコストが高まるのは必定だ。その困難な道を敢えて選択し、松本は歩んでいる。

連載 : 公務員イノベーター列伝
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文=加藤年紀

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