ビジネス

2018.06.14

ノン金融出身者が挑んだ、銀行での「共感ビジネス」

(c)Adobe Stock


それでも、「まだやっているの?」「銀行でクラウドファンディングなんて無理だよ」と、直接的ではなく間接的に、容赦ない声が聞こえてきた。

ごもっともなご意見として受け止めつつ、「まだ自主的活動の域を出ていない。オフィシャルに認めてもらうには時間がかかる」と言い聞かせた。「いい波じゃなかっただけです。準備は進めつつも、追い風のタイミングに事業を浮上させるのが大事です」

新規事業は、計画を立てるものの、進めてきた中で見えてくるタスクや優先順位が変わることがよくある。計画は重要だが、計画至上主義ではうまくいかないことも多い。事業コンセプトのコアに紐づく課題なら、その解決を優先する必要がある。ゴールがなかなか見えない中、チームとしても個人としても気持ちが折れないようにするのも大事だが、そこで忘れてはいけないことがある。

「そもそも何のためにこの事業をやろうとしているか。その軸がブレてくると、先が見えづらい新規事業の事業化は続かないことが多いです」

2017年8月、仲間の協力を経て遂に国内銀行初※となる投資型クラウドファンディング事業「Sony Bank GATE」がスタートする。事業の原型となるアイデアを社内の記念行事で発表してから、草の根活動を含め5年の歳月を費やしていた。

Sony Bank GATEは、非上場の魅力あるベンチャー企業等へ小口から投資できる金融商品。通常のエンジェル投資なら個人でも最低数百万、数千万単位の投資を求められるが、Sony Bank GATEは5万円程度の少額から投資できる。

投資先である挑戦企業の顔が見えるよう、経営者や事業責任者の想いが伝わり、投資した後も事業の活動がわかる仕組みも取り入れている。「共感・応援」という、この事業における中路氏のこだわりの表れだ。「金融商品という無形なものに対して、投資するお客様が“手触り感”を感じられることを大切にしました」

嬉しいクレームと結果で社内の評価が一変

ローンチ当日、顧客から予期せぬ問い合わせがくる。「なんでこういう商品を事前に知らせてくれなかったんだ」。その後も、同じような問い合わせが続いた。「それだけ魅力的と言いたかったのかもしれません」

1号ファンドは事業開始とともに即日で売り切れ。その後も全ての案件で目標募集金額を達成。比較的短期間での完売が続き、手応えを感じている。

事業開始後、銀行や証券会社など金融各社から、新規事業のヒントを求めるヒヤリング・ミーティングの依頼が続いた。「よく社内を説得して事業化できましたね」「ソニー銀行さんらしいですね」「当社も投資型クラウドファンディングについて調査・検討しているので、話を聞かせて欲しい」……すると、どこか遠巻きに見ていた社内のメンバーからも「社内の元気印として、活性化のきっかけになった」という声があがるようになった。

それでも、「スタートラインに立ったばかり」と中路氏は控えめだ。「当社サービスに関心を持っていただける挑戦する企業や投資家のお客様を増やしていきたい。そのためにも、ファンドを継続的に組成していくことに加えて、投資型クラウドファンディングならではの魅力ある事業を手がけていきたいと思っています」

将来的には、資金調達ニーズと資産運用ニーズをつなぐ金融プラットフォームとして取り扱える事業のラインナップ拡張も進めていきたいという中路氏。道はまだまだ続く。


ソニー銀行 新規事業企画部 副部長・中路宏志氏

※投資型クラウドファンディングとは、ベンチャー企業等の資金調達ニーズと投資家の資金運用ニーズをインターネット上で結びつける仕組み。「Sony Bank GATE」は、銀行が企業の審査、ファンドの募集・管理などをワンストップで運営する投資型クラウドファンディングのプラットフォームとしては、国内銀行初の取り組みとなる(2017年8月8日、ソニー銀行調べ)。

文=木村忠昭

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事