ビジネス

2018.06.14

ノン金融出身者が挑んだ、銀行での「共感ビジネス」

(c)Adobe Stock

大手企業での新規事業は、既存事業で結果を積んだエリートが中心となって進めているケースが多いと言われるが、必ずしもそうではない。今回は、異業種である広告代理店から銀行に参画し、フィンテックの新規事業を立ち上げた事例を紹介したい。

2012年、ソニー銀行のマーケティング部門に属していた中路宏志氏は、開業10周年記念行事のひとつとして「10年後のソニー銀行の未来(Kore10)」をワーキングチームメンバーとともに考えていた。

ソニー銀行はネット銀行として資産運用商品・サービスを提供しているが、単純な高金利・高配当だけではない、自分が応援したい企業に想いを込めて投資し、リターンを得られるような運用の仕組みを提供してはどうか──。そうして企画を練り上げ、投資型クラウドファンディング事業の原型となるアイデアを発表したが、記念行事の一貫としてほどなく終了した。

これで終えていいのだろうか。中路氏はずっと引っかかっていた。熱が冷めず、会社を終えると、クラウドファンディングを手がけている企業やイベント等に足繁く通った。話を聞けば聞くほど、共感・応援を掛け合わせた金融サービスは魅力的に映った。そして、起業家や新しい事業に挑戦する企業を支援する仕組みを創りたいという気持ちは日増しに大きくなっていった。

2013年11月、中路氏は「石井さん」と慕う当時のソニー銀行社長(現ソニーフィナンシャルホールディングス社長)石井茂氏に、投資型クラウドファンディング事業の可能性について直談判した。公式の経営会議でもなければ、形式ばったレポートラインでの検討を重ねた上でのアポでもない。それでも石井氏は快く迎え入れ、聞いてくれた。

同氏は山一証券時代、日本の個人向け金融を変えたいという信念のもと、上司に進言していたような人間。「空気を感じてきなさい」と中路氏に投げかけ、翌年シリコンバレーへの視察へと送り出してくれた。沢山の出会いと気づきを経た帰りの飛行機で、「新しい金融事業をやろう」と決意を固めた。

社長への提案がきっかけでソニーの新規事業メンバーに

2014年6月、当時のソニーの社長兼CEO、平井一夫氏がソニー銀行に訪れた。各部署への視察や現場社員との意見交換の場が設定されていた中で、中路氏は同氏に、温めていたアイデアであるクラウドファンディング事業の構想案を説明した。


当時のソニー社長兼CEO・平井一夫氏の背中越しに映る中路氏(ソニー銀行提供)

「今だから言えますが、実はこの提案はこの時点で正式に決まった事業企画ではなかったんです。まだ構想レベルでしたが、ソニーらしい面白いビジネスだと思ったので」と中路氏は振り返る。

時を同じくして、2014年4月にソニーで新規事業創出プログラム(Seed Acceleration Program)を運営する部が立ち上がっていた。出口戦略を考えているから合流できないか、と後日話が舞い込んできた。紛れもなく、平井氏に説明したことでの動きだった。

そうしてソニーに兼務出向という形で携わったのが、製品と支援者をつなぐクラウドファンディングとEコマース機能を合わせもつ共創プラットフォーム、「First Flight」の立ち上げだった。構想からわずか10カ月のスピードローンチ。「自社より大きな会社で事業のゼロイチをできたのだから、銀行でできないことはない」。想いは確信に変わった。
次ページ > 何のための新規事業か?

文=木村忠昭

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事