引き渡しイベントでは、列をなしたマスクファンや火炎放射器愛好家の間でばか騒ぎが起こった。本社で引き渡されたものとは別に、1万9000台が発送される予定だ。この製品は、マスクのトンネル掘削会社ボーリング・カンパニー(The Boring Company)が冗談で展開した宣伝活動に端を発し開発された。約1.2メートルの炎を出せるとされ、商品説明にはいたずら心をくすぐる文言が並ぶ。夏のビーチパーティーには欠かせない“おもちゃ”というわけだ。
ペイパルの起業で億万長者となり、フォーブスランキングの常連であるマスクは、昨冬にこのアイデアが「炎上」し始めて以降、その火消しに躍起となっている。発送箱には「Not-A-Flamethrower(火炎放射器ではない)」と明記。ツイッターでは、米著名絵本作家ドクター・スースの『Green Eggs and Ham(緑の卵とハム)』からヒントを得たという、詩的な「使用上の注意」を投稿した。「家の中では使いません。配偶者には向けません。危険な方法では使いません。一番の使用目的はクリームブリュレ」
マスクはツイートで「#ThrowFlamesResponsibly(責任を持って炎を放射しよう)」というハッシュタグを使い、今までの冗談めかした態度を突如として変え、販売に伴う責任を真剣にとらえていることを強調している。つまり、「火炎放射器ではない」のに、発明した本人が「責任を持って炎を放射する」よう呼び掛けているということ。では、この製品は一体何なのか?
大人が裏庭で遊ぶための近未来的でいくぶん高価な玩具としては、映画『ゴーストバスターズ』に登場したゴースト捕獲装置の「プロトンパック」、さらには『スターウォーズ』初期作品でのストームトルーパーの武器にまでさかのぼる、長い伝統の中に位置づけられる。この「火炎放射器ではない火炎放射器」は、初期のSF作品に登場するデザインを一部継承した、少々皮肉的、かつレトロでモダンな着火装置として考えれば良いだろう。
しかし現実世界では今、カリフォルニア州南部が過酷な山火事シーズンへ突入しようとしており、火炎放射器の市場投入時期としては最高のタイミングではないだろう。ただありがたいことに、購入者は今のところ、安全に気を使い、裏庭での意図せぬ事故(子どもや犬、自分の長髪を焼いたりしてしまうこと)の防止を最優先と考えているようだ。
とはいえ購入者の中には、即座の転売を考えている人がいるのも明らかだ。ネットでは既にオリジナル価格の3~4倍で販売されているとの情報も出ている。残りの1万9000台が配送されたら何が起こるかは現時点では不明だが、価格の高騰以外のことが起きる可能性もある。
マスクの火炎放射器は、少々不安定ながらも熱狂的な発売を迎えた。マスクのベンチャー事業の大半と同様、その後継製品が出るかどうかは、所有者の行動にかかっている。